デニロ

鬼火のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

鬼火(1956年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

加東大介が貞淑な人妻の着物の帯を解かせようとする話。

ガス集金人の加東大介。いい年になっているのだが独身生活も長くなり精気を持て余している。街ゆく女性の後姿を舐めるように目で追い同僚から、何見てるんだい、と揶揄われる。その同僚から集金家業でおこぼれとして女性征服の手柄話を聞くに及びいつかは自分も等とチャンスを窺ったりする。

或る夏の日、担当地区変更で集金がてら挨拶に回っているのだが、相当期間ガス代金未払いの家に向かうことになる。外見から荒れ果てていて呼び掛けても返事がない。今日はいいやと帰ろうとすると、そのあばら家の女津島恵子が現れる。彼女の夫はカリエスを患い寝たきりで、彼女は薬を煎じるにガスは欠かせぬのでどうかガスを止めないでくれと懇願する。おお、ここに獲物がいたとばかりに畳み込む加東大介。/魚ごごろあれば水ごごろ、あんたの気持ち次第で俺だって/どうしたら/大人の話をしようや・・・/・・・でもここでは嫌です/今晩家においで/津島恵子の端正な顔を見ながら/ちゃんとすればきれいなんだからせめて帯くらい締めてきなよ/

寝込んでいる宮口精二は妻の外出の時間を気にするのだが、津島恵子は女が帯のないことの恥ずかしさを訴える。すると宮口精二は自らの帯を解き、これをお持ち、夜だからわからないだろう。

津島恵子がなかなか現れないのでふて寝をしているところにようやく現れたので加東大介の溜まっている男が逆流する。津島恵子は灯りを消してください。おうおうムード満点だなと上機嫌で布団を敷きながら、ガス代は立て替えた云々で硬い表情の津島恵子を宥めすかす。少しの間灯りをつけて津島恵子を見ると昼間と同じ薄汚れた浴衣姿。夫の帯を借りてきたんです。げんなりして詰ると彼女は如何に生活がままならぬか訴えかける。ガス代はちゃんとしたから、と領収書を見せると、津島恵子は彼に背を向けて逃げるように去っていく。

翌日の昼。昨夜はひどい目にあった、今日こそはとあばら家を訪ねる。引き戸を開けるとガスがつけっぱなしになっていて、何だよ嫌がらせかよ、と愚痴ながら家の中に入り込むと様子がおかしい。暗がりの中壁伝いに進み襖を開けると布団の中で死んでいる亭主を見つける。慌てて明るい台所の方向に逃げようとすると、そこには例の帯で首を括っている津島恵子のシルエット。

悪かった!堪忍してくれ!と、いつしか夜の闇となっている叢を逃げ惑う加東大介の背にガスの火がゆらゆらと浮かんでいるのです。

国立映画アーカイブ 東宝の90年 モダンと革新の映画史(2) にて
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