好色で取るに足らない男が劣情に駆られ、結果として不幸な夫婦の悲劇の幕を引く。ガスで生じた鬼火は安直で興が削がれた。加東大介が銭湯で魅せる頬下の肌艶が忘れがたい。集金の際の出歯亀シーンの音楽の付け方が変。

脚本が菊島隆三だもん私の中ではイーストウッド並みのテッパン作家、にしたって3年前のヴェーラでの千葉泰樹特集でもかからなかったフィルセン所蔵「鬼火」中編SP作品として完璧に近い出来。ラピュタでは何度かやってるのか、コメディとホラーの間を駆け抜ける真似できない傑作。ガス代を巡る
千葉泰樹15本くらいしか観れてないが千葉の独特さがかき消され加東大介のお茶目さと、お茶漬けの味や七人の侍にも出てるが縁の下の力持ちな印象の津島恵子の、2人の相反するイメージが見事に物語を作り上げ、ラストのまさかのシーンには絶句。思い返してみると、冒頭のうだる夏の暑さに輝くアイスキャンディーの真っ白さがあまりにも不気味すぎる。それを食べてしまったことから始まる怪奇物語としても捉えられるのか、なんて考えすぎか。モチーフと起承転結が完璧な中編作品、おすすめ。

• #2019〜

例え軽い気持ちで恐喝したとしても、相手にとってそれが屈辱になり追い詰めることになることがありそうなったらもはや引き返せない。主人公のガス集金人でふとしたことからガス代が払えない女性を脅迫する加東大介は挙動がコミカルで最初は楽しいし妄想シーンは笑えるけれど、それがかえって後半起こる悲劇を一層重くする。

そして何度見てもあのラストは凄すぎる、それまでリアルな描写を心がけていた映画が変転して地獄の底のような世界になり背筋が凍る。宮口精二の顔とねじれた時空間はもはやホラー。