明石です

怪奇!魔境の裸族の明石ですのレビュー・感想・評価

怪奇!魔境の裸族(1973年製作の映画)
4.0
タイのジャングルを旅している最中に未開のジャングルへ迷い込んだ男が、石器時代のお姿そのままの裸族に捕らえられ、奴隷にさせられる話。食人族の話ではないのに『食人族』のヒットにあやかって妙な邦題をつけられた、実はしっかりと作られた社会派の映画。

食人映画の元祖ウンベルト・レンツィ監督の1973年の元祖食人映画、ということになってますが、実は作中には食人のシーンがほんの一部あるだけで、食人映画というには全くもの足らない。そんなわけでラストでもカニバルでもないのに「ラストカニバル」という邦題をつけられた当時の配給事情はさておき笑、本作の7年後に作られたデオダードの本家『食人族』や、同じくレンツィ監督の『人喰族』に比べると、主人公の心の声がナレーションで入ったり、物語自体に啓蒙的な雰囲気があったりしてフィクション色が強め(そもそもモキュメンタリーじゃないし)。しかしここからアレが生まれたのだと思うと感慨深いような気もする。

しかしアマゾンやアフリカの広大なジャングルや、外界から隔絶されたボルネオの離れ小島ならいざ知らず、よりに寄ってバンコクからほど近いタイの一地域に、こんな絵に描いたような石器時代の裸族がいるというのは、素晴らしく偏見だなあと思う笑。なにしろアジアは米食ぞ。そもそも狩猟採集民族とは別物ぞ、、人類は一度農耕を始めたら、加速度的に増える人口との兼ね合いで狩猟採取には戻れないというのを、昔、人類学の本で読んだことがあるのですが、そういう観点で言えば、こんな文明から近い場所に狩猟採取の裸族が存在するというのは奇跡という他ない!

作中唯一の白人であり、裸族の囚われ人となる主人公がチャールトン・ヘストンに似ているので、画的に『猿の惑星』感がムンムン。しかも尺の大部分を布切れ一つでいるおかげで余計に。しかし郷に入っては郷に従ううちに何だかんだ順応し、奴隷から戦士へと成長。村でも一目置かれる存在になるヘストン。そして文明から距離を置くほどに、内なる人間性が解き放たれ、心が清らかになっていくという、思わぬ展開に。

裸族で1番の美女とされる女性(ヒロイン)が、目隠しして座らされ、村の男たちに順ずりに体を触られるという儀式(なんたる風習)で、他の男がみんな胸や股間を触っていたのに、文明から離れ心の清らかになった主人公だけは彼女の手を握ったことで、甘いロマンスが芽生え、、ほんと、食人族やカニバルなんて言葉から連想される内容とは真反対の心温まるお話だ、、

ところが彼ら部族の近くには、女性をレイプして肉を食らう本物の蛮族がいた!!てなわけでその蛮族が食人を行うシーンが一部あるのだけど、女性を犯した後その場で手足を切断してむしゃむしゃ食べるという、痛々しさはあるけどリアリティゼロの数分間笑。これをもって「元祖食人映画だ!」とはよく言ったものだなと思う。しかし村一番の戦士となった主人公が村人を率い、蛮族と戦争を起こす展開に!!凄い映画だ笑。

生きたマムシの頭をつまんで毒を出し、矢の先に塗りつける描写は生々しく、毒矢ってそんな風にできるのかと、なんだかモンド映画を見てる気分。板から半分出させた猿の頭をスパッと切ってその場で脳みそを食べるシーンは、レンツィ監督は後々『人喰い族』で同じことを人間の脳みそでやってるのだけど、猿でやる方が遥かにキツいのなぜだろう、、そしてカラッと揚げたゴキブリをむしゃむしゃ食べるシーンもあり、やっぱり半分くらいはモンド映画だなあと思った次第。

おそらく監督自身が設定したこの映画の主題である、文明が人の心を淀ませるのではないか?というテーマはけっこう面白くて、最初は「この地獄に来て1ヶ月になる。早く脱出しなければ、心まで未開人と化してしまいそうだ、、」なんてノタマっていた主人公が、その「未開人」になるにつれ心が浄化されてくというなかなかにパンチの効いたストーリーが目玉。特に、上空に見つけたヘリコプターに始めの頃は大わらわで助けを求めてた主人公が、終盤ではヘリを敵(なにしろ文明の象徴)とみなし、村人たちに隠れるよう指示して見せたりするのが、なかなかに印象深い演出でアル。
明石です

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