YAEPIN

アリスのYAEPINのレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
4.3
チェコ語は本当に難しそう。
聞き馴染みのある言葉がひとつも無い。
チェコにとっては外来語であるはずの「アリス」すら「アリス」に聞こえなくて困った。
何度も繰り返される「ウサギ」が「クラーリク」みたいな発音をすることだけ覚えておこう。

かの有名な『不思議の国のアリス』をチェコのシュルレアリスム作家、ヤン・シュヴァンクマイエルが映画化した作品。
彼の存在自体、最近知り合いに勧められて知った。

『アリス』は基本可愛くておどけてて、愛らしい馬鹿馬鹿しさに満ちている作品のはずだが、本作ではおがくずが溢れている。
アリスを不思議な冒険に誘う白ウサギは、おがくずまみれの自分の体内から懐中時計を取り出し、その度におがくずで汚れた時計を律儀に拭く。
そして取り出す度におがくずがボロボロ床に溢れるが、ウサギは別のシーンでおがくずを食べて補充?している。
一見して強烈にグロテスクというわけではないが、なんだかこちらが『アリス』に期待していたものを少しずつ削ぎとっていくような気味悪さがあるルーティーンだ。

「ルーティーン」で言えば、お茶会のシークエンスで、時計をバターに塗ったり席を移動したりする一連の動作が永遠に繰り返され、頭がおかしくなったかと思った。

ヤン・シュヴァンクマイエルは「食事」に嫌悪感を抱いているとWikipediaで読んだが、アリスの口元だけが執拗に何度も映される点や、人形の舌の造形が気持ち悪すぎる点などから、口への執着が感じ取れる。
庵野秀明もそうだが、天才は食事と相容れないものなのか。

全体的にうなされそうな薄暗い作品の中で、アリスを演じるクリスティーナ・コホトヴァーちゃんの可愛さだけが救いである。
幼い子をこのような作品の撮影で何日も拘束することが、児童虐待に当たらないか心配だ。

これほどまでに悪夢的な装飾が施されているのに、トカゲのビルや豚の赤ちゃん、ウミガメなど、意外と原作に忠実なのも不可思議である。

ドラえもんよろしく、次なる世界に行くにはほぼ毎回机の抽斗がゲートになるという作りは興味深かった。
YAEPIN

YAEPIN