てつこてつ

細雪 ささめゆきのてつこてつのレビュー・感想・評価

細雪 ささめゆき(1983年製作の映画)
4.3
文豪・谷崎潤一郎の代表作dである長編小説の3回目の映画化、かつ、東宝創立50周年作品。アメリカで発売されているブルーレイ版を購入。

有名な「こいさん、頼むわ。」の出だしから始まる、上・中・下の三巻にわたる原作は、高校時代に繰り返し読んだ。川端康成や三島由紀夫の著作に見られる、研鑽された美しい日本語を堪能するというスタイルと異なり、谷崎潤一郎は、比較的、通俗的な物語の展開を楽しめるという特徴がある。特に、この「細雪」では、大阪を舞台に、大阪に住む人物たちがメインキャラクターであるため、谷崎自身は関西人でもないのに、関西弁の台詞が巧みで、登場人物が本当に生き生きと描かれている。美人四姉妹の一人が鯖にあたったり、東京へ嫁ぐ花嫁の車中の下痢で締めくくらせる小説なんて、昭和初期を代表する他の文豪たちの作品で読んだことない。

この市川監督版より以前に制作された二作品は見ていないが、これだけの大作を、原作の世界観を決して崩すことなく、二時間半弱に見事にまとめあげ、市川崑監督の手腕は、お見事。

四姉妹のキャスティングも岸惠子・佐久間良子・吉永小百合・古手川祐子と、各年齢層を代表する大女優たちを抜擢し、原作の蒔岡四姉妹のイメージにぴったり。特に作品を引っ張っていく役割を果たす次女・幸子を演じた佐久間良子がいい。子供を二人を持つ母親であるのに、お嬢様育ちの癖が抜けずどこか世間知らずな長女・鶴子を演じた岸惠子、言葉数が少なく何を考えているのか窺い知れない嫁入り時の三女・雪子を演じた吉永小百合も役柄に合っている。輝かんばかりの美しさで魅了する、当時の東宝の新進女優・古手川祐子も、大先輩たちの陰に隠れてしまうことなく、名家の家風にちょっと反抗心を持つ末娘・妙子を生き生きと演じている。四姉妹が使う上品な船場言葉の響きも美しい。

長女、次女の夫役を演じた伊丹十三と石坂浩二も実に良い味を出して、華やかな顔ぶれの女優陣を、より一層、引き立てている。個人的には岸部一徳だけが、原作のイメージと余りにも違ってミスキャスティング感。

ストーリー自体は、原作がそうであるように、かつての名家の四姉妹の日常生活に起こる、お見合い、東京への夫の転勤、駆け落ちなどを淡々とただ描き、そこに特にドラマチックな展開や起承転結もないが、市川崑監督ならではの圧倒的な映像美が終始一貫している。

そう、これは、ストーリーよりも、東宝が創立50周年を記念に、偉大な文芸大作に豪華スタッフとキャストの総力を結集させた豪華絢爛たる映像美を堪能する作品。

冒頭の、それぞれ艶やかな色彩の着物を身にまとった四姉妹恒例の花見シーン、そして、そこから繋がる、ラストの降りしきる細雪が、やがて舞い落ちる桜の花びらにオーバーラップしていくシークエンスは市川監督ならではの名人芸。ハラハラと涙をこぼす石坂浩二の姿も、実に切なく美しい。自分がこれまで見てきた邦画では一番美しい「男泣き」かも。

市川監督が指定したクラシックの名曲の数々から編曲してシンセサイザーで奏でたという主題曲も荘厳でありながら華やかで、実に作品にマッチしている。

やはり、この作品は、きちんとソフトをコレクションし、何度も繰り返して見てみたくなるので、ブルーレイ購入は大正解。
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