サマセット7

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.9
監督は「ジョーズ」「ジュラシックパーク」のスティーブン・スピルバーグ。
主演は「タイタニック」「インセプション」のレオナルド・ディカプリオ。

【あらすじ】
1960年代アメリカ。
敬愛する父親(クリストファー・ウォーケン)が脱税が原因で没落し、母と離婚する様を見ていた少年フランク(ディカプリオ)は、両親の元を出奔。
天才的な詐欺師の才能を活かし、飛行機のパイロットに変装して信用を得て、偽造小切手で銀行に現金を支払わせ、無賃で飛行機に搭乗して各地を飛び回る、という手口で詐欺を繰り返す。
小切手詐欺の専門家であるFBIの捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)は、もう一歩のところまでフランクを追い詰めるが、フランクは逃走にも見事な手際を披露し・・・。

【情報】
エンターテインメント映画界の帝王スティーブン・スピルバーグ監督による2002年の監督作品。
彼が現時点では唯一レオナルド・ディカプリを主演に据えた監督作である。
詐欺師を追う刑事役のトム・ハンクスとスピルバーグは、プライベートライアンに続き2度目のタッグ。よほど相性の良さを感じたのか、今作後もコンビを続け(ターミナル、ブリッジオブスパイ、ペンタゴンペーパー)、現在までに5本の映画とテレビドラマシリーズまで撮っている。

音楽にジョン・ウイリアムズ、撮影にヤヌス・カミンスキーは、スピルバーグ作品常連の豪華な布陣である。

今作は、実在の詐欺師フランク・W・アバグネイルJrの半自伝小説「世界をだました男」を原案として映画化したもの。
彼が16歳で本格的に詐欺を始め、21歳で逮捕されるまでを描く。
小切手詐欺の被害額は、250万ドル以上になるという。
パイロット、医者、弁護士といった複数の身分を詐称していたことで知られる。
社会復帰後は、詐欺対策のコンサルタント業で一財をなしたという。
映画化にあたっては、いくつかのエピソードが改変されており、ハンラティ刑事は複数の人物をモデルにした架空の人物とされている。

メインストーリーは、次々と身分を変えながら、詐欺を繰り返すフランクが、ハンラティ刑事の追跡から逃走する様を描く。
ジャンルはクライム・コメディ。
騙し合いのコンゲームや逃亡サスペンスの要素を含む。

今作は、批評家から高い評価を得ている作品である。
一般層からも、広く支持を得ている。
5200万ドルの予算で製作され、3億5000万ドルを超える興収を稼ぎ出した。

【見どころ】
詐欺師と刑事の痛快な騙し合い!!!
そのキレの良さ!!!
公開時28歳のレオナルド・ディカプリオの、身分詐称に応じて60年代の様々なファッションを着こなすかっこよさ!!
この魅力は、騙される!!
フランクと父親の父子関係と、フランクとハンラティ刑事との追うものと追われる者の関係性という、二つの関係を軸にした人間ドラマ!!

【感想】
面白い!2時間20分もあっという間!!

スティングにせよ、オーシャンズイレブンにせよ、詐欺師ものはある程度面白さが約束されているように思うが、今作もその一例に加わった。

あまりに大胆不敵な犯行の数々に、これが実話と言われると唖然としてしまう。
まずは、ディカプリオの華麗な騙しっぷりを心ゆくまで楽しむ作品だろう。

若きディカプリオの魅力!!!そのスマイルの威力!!!
特に有名なマイアミ空港のシーンは、白眉だろう。映像の説得力がハンパない。

フランクの詐欺は、もちろん純然たる犯罪であり非難されるべきなのだが、銀行から融資を無下にされて人生が転落していった父親の意趣返しといった一面もあり、痛快かつ軽妙な演出もあって、実録犯罪もの特有のエグみはそこまで感じな
い。
途中の結婚詐欺は酷い話だが・・・。

フランクの行動は、いずれも序盤に描かれる父親の言動の鏡写しであり、伏線として機能しているあたりが、脚本として良くできている。
スープのネズミ!
スーツ!!
「これ落としたよね」
父親との関係性は、本作の重要な軸の一つだろう。
父親を演じるクリストファー・ウォーケンの没落後の演技が凄い。

もう一つの軸である、刑事との関係も見どころ。
疑似的な父親を演じさせたら右に出るものがいない、トム・ハンクスの安定感!!
5回も共に映画を作っていることから考えると、スピルバーグは、トム・ハンクスを理想の父親像と考えているのではないか。
幼少期に両親が離婚し、父親不在の家庭で育ったスピルバーグの半生が、今作の脚本に与えた影響を考えずにはいられない。

全体として、とにかく軽妙洒脱。軽快に楽しめる、見事なエンタメ作品である。

他方、詐欺師ものに条件反射的に期待してしまう、観客まで騙された!!!的なカタルシスは、さほどでもない。
今作は実話ベースの作品であり、限界があろう。

【テーマ考】
今作は、父親的存在の与える正と負の影響を描いた作品、と見えた。

実父の言動のフランクに与えた、負の影響力と、徐々に疑似的な父子関係を形成するハンラティ刑事の与える、正の影響力の対比は明快だ。

ウソと騙しで築いたフランクの生活は、刺激的だが、ひたすらに空虚だ。
その生き方は、取り繕い、形にこだわり、現状に不満を呈するしかない父親の生き方に重なる。
他方で、地道で一見ぱっとしないが、正道を歩くハンラティの生き方の充実!!!
逮捕後の顛末は象徴的であろう。

このように理解すると、様々な作品で親子や家族を描いてきたスピルバーグの志向とも重なってくるように思う。

監督の志向、という意味では、今作で描かれる夫婦の関係も示唆的かもしれない。
フランクの父親の虚飾に幻滅して離れて行く、その妻。
仕事に邁進し、正道を行ったハンラティ刑事と、過去に離婚したその妻。
そして、フランク自身の夫婦関係・・・。
今作で描かれる男女の関係は、徹底して、断絶している。
製作者の諦念が見える。

もちろん、メタ的には、ディカプリオをいかにかっこよく魅せるか、という点に、製作上のテーマがあったろう。
その結果が、今作の興行的成功に結びついたことは論を待たない。

今作から得られる教訓は、イケてる異性がにっこりしながら、君の瞳は素敵だ、とか言って寄って来たら、警戒せよ、ということだ。

【まとめ】
名監督が豪華キャストと共に送る、詐欺師ものクライムコメディの秀作。

監督の趣味全開の007オマージュ(コスプレ?)シーンもなかなか印象的。
ボンドガール!!??となる。
シーンのオチもよい。