近本光司

宗方姉妹の近本光司のレビュー・感想・評価

宗方姉妹(1950年製作の映画)
4.0
小津の生誕120年/没後60年の日に再見。田中絹代と高峰秀子が共演を果たしたのはいつ振りだろうと思っていたら、公開当時のパンフレットに五所平之助『新道』以来14年振りのことだと書かれていた。二人は15歳差だから、『新道』ではまだ12歳だったデコちゃんは『宗方兄妹』で往年の田中絹代の年ごろに達したのだと思うと、なにやら感慨に深いものがある(二人の関係性は高峰秀子著『わたしの渡世日記』にくわしい)。と周辺情報から書いたのも、まさにこの映画は田中絹代と高峰秀子の姉妹二人が象徴する世代間の異なる価値観の対立と和解を主題にしたものだからだ。うだつの上がらない亭主関白な山村聰に七回ぶたれ、普段は着物をうつくしく着こなす田中絹代の屈辱と誇りの入り混じった表情のショットの強さ。そこに高峰秀子は寄り添って、お姉さんが打たれるなんておかしいとおいおい泣く。その左肩にそっと乗せられる田中絹代の右手。
 いくつもいいショットがあるが、いちばん印象に深いのは、山村聰と高峰秀子が閉店が決まったバーカウンターでグラスを投げたあとに挿入される一脚の椅子の空ショット。あの異様なまでの不気味さは、直後に描かれる山村聰の突然の死を予告するものとして機能している。
 しかし唯一の新東宝作品だけあって、普段の小津松竹組とはちがう脇役の面々が、この映画にモダンな雰囲気を与えている。飲み屋にいる千石規子とか、たまりませんね。あれが坪内美子あたりだったらぜんぜんちがう感じの映画になってたはずだ。