ナガノヤスユ記

宗方姉妹のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

宗方姉妹(1950年製作の映画)
4.0
高峰秀子がのびのびと暴れまわっていて素晴らしい。徳川夢声の漫談がモデルという軽妙なひとり芝居、見事です。彼女が演じている妹は、厭世観と諦観が強いこの作品の人物たちの中にあって、ひとり浮いていて、ややもするとそれだけでウザいのだけど、あの無邪気さと天真爛漫なキャラクターでぎりぎり観客に憎まれるのを回避してる。ふつうに考えれば損な役回りなのに。あっぱれ。
妹と対照をなす、驚くほどスタティックで表情の動かない姉を演じる田中絹代も、また同様に素晴らしい。着こなれた和服をまといながらの挙動ひとつひとつに重みがあり、先端の洋服に身を包んだ妹の軽さや危うさと鏡の両面を形成し、それだけで作品内部を大きく超えた豊かさを感じられる。本当に自分の命を全ベットし、常に死の淵にいるのは姉のほう。
物語は、自分の死期を悟り、それをすでに受け入れたかにも見える父親の告白ではじまる。なつかしい記憶のかおる寺の階段に腰かける姉妹。かいでいる匂いは違う。生まれ育った家でふたりは、古さと新しさについて言葉を交わす。時代の変貌。追うか、追われるか。それはただの選択の違いなのか。いま新しいものは、いつか古くなる。わたしたちはいつまで新しくいなければいけないのか。新しくある、とは何なのか。
ふと気を抜けば、安心安全な意味世界に回収されてしまいそうなところ、最後までそれを許さない、良くも悪くも捉えどころのない作品。誰にとってもわかりやすいものに流されないこと、安易に選ばないこと、とりわけ自分に厳しくあること。これもまた、すぐに古くならないためのコツなのかもしれない。