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宗方姉妹のakrutmのレビュー・感想・評価

宗方姉妹(1950年製作の映画)
3.7
恋愛に対して保守的な姉と自由な妹という対称的な姉妹を描いた、小津安二郎監督のドラマ映画。大佛次郎の同名小説が原作であり、新東宝に招かれた小津監督が、初めて松竹以外で制作した作品。

前年に『晩春』を制作した小津監督にしては、小津スタイルが垣間見えるものの、小津作品としてちょっと物足りない出来のように思える。一人の男性(上原謙)をめぐる姉妹の関係に深みがあるわけではなく、機微に触れる演技が見れるわけでもない。曖昧な反応しかしない古風な姉と自由奔放な妹という対比も、平凡と言えば平凡である。姉妹の父(笠智衆)の余命が短いという冒頭に描かれるエピソードが最後まで置き去りだったり、姉の夫(山村聡)がなぜそれほど腐っているのかが不明だったりと、気になってしまう部分も少なくない。おそらく(野田高梧だけあって)脚本化に際して、原作の多くの部分を省いて、姉妹に焦点を当てた結果なのであろう。

それでも、田中絹代と高峰秀子の演技はさすがである。田中絹代は『風の中の牝鷄』で階段から突き落とされるという衝撃シーンを演じているが、本作でも夫に頬を激しく叩かれるというシーンがある。被暴力映えするのだろうか。一方、妹を演じた高峰秀子は、子役時代には小津作品に出演しているが、成人となってからは唯一の小津作品への出演作である。彼女の自伝エッセイには、撮影時のエピソードやその後の二人の交流が綴られていて興味深い。演技に厳しかった小津監督の撮影現場では、笠智衆でも演技中に震えるほど緊張していて、それを見た高峰秀子もビビったそうだが、彼女に対してはほとんど指示を出さずに、自由に演じさせたようである。彼女もそれを感じて、過剰とも言える演技をしたのであろう。
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