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不思議の世界絵図のpikaのレビュー・感想・評価

不思議の世界絵図(1997年製作の映画)
3.5
優しさに満ちた映画だなぁ。ファンタジックな演出にしているシーンは直接的に描写すると結構ハードなシーンだから意識を逸らすためにわざと奇抜な演出にしたように見える。
別れの場面で同じ音楽が流れたり自然光を利用した陰影麗しい撮影など哀愁漂いまくる少女の旅路。人のモノ勝手に漁りすぎなお茶目さや中性的な雰囲気が愛らしい。
少女の一人旅という危うい展開をいい意味で裏切る寓話的なドラマの流れが微笑ましくありながらなぜそんな悟ったように親切なのかという側面で見ると出会った彼らの眼差しは慈しみではなく憂いなのかもしれないと考えると色々ヘビーだ。
少女だけはなぜこんなにというほどに純真で、出会った人々に対して何もアクションは起こさない。少女のドラマのようでいて各エピソードを見せるために動かされている狂言回しなのかもしれない。

新郎と寝転んだシーン、粉かけられてるときの表情が良い。
訓練校を出発したとき門を背に風が吹く瞬間、山間を走るトラック、高速道路ぽいところで夫婦と別れるシーンなどたまに外のシーンが低予算弾丸ゲリラ撮影に見えたりして幻想的とは程遠いライブ感が混在している奇妙な感覚に味わいがある。

埋まったばあさんの水浸しの家にタルコフスキー、何もない草原にあるトラックとおっさんという構図にアンゲロプロス、結婚式のシーンにあちら方面の色んな映画(『放浪の画家ピロスマニ』やパラジャーノフ)を想起したり。
いわゆるロードムービーで幻想的だったりシュルレアリスティックな演出をするってのは表現として見せやすいのか、ブニュエルもパラジャーノフもホドロフスキーもアラバールもやっててそのどれもが超独特個性的な傑作群であるので、自然と比較してしまってその点難があるなと思っちまった。気にしないようにこの映画だけを見ようと集中してるんだけど画面から溢れ出る優しさがまろやかな印象に変えてしまう。おそらくわかった上で意図した印象だと思う。寓話に込められているのは辛辣な現実なわけで、それを見やすく優しく描いているところは今作最大の魅力。まだ2作しか見てないけど穏やかに包み込むような映画への姿勢に『らしさ』を感じた。
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