ハル

パーフェクトブルーのハルのレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.2
「名作は時を超える」というのは定説。
そして、突き抜けた怪作も同様であることが深く伝わった。
芸能界で生き抜くことの厳しさ、この時代ならではの感覚。“売れるため”にレイプシーンやヌード撮影をやらざるを得ない女優の過程がまざまざと描写されていく。
センセーショナルだ。
アニメとはいえ、R15指定になるのも納得。
シビアでハードな展開に心臓は常にバクバク。
とてつもなく高純度なリアリティーを感じさせ、古臭さを全く感じさせない点も実に素晴らしい。

アナログな映像を見ていると『YAWARA!』や『シティ・ハンター』等のなつかしき、地上波アニメの質感が想起された。
当たり前になりすぎた“デジタル”ではない感覚に新鮮味を覚え、不思議と嬉しい気持ちに。
味のある、一昔前の作画も良いものだったよね。

芸能界の闇、ストーカーの狂気性を真っ向から描いた本作は破壊力を有する尖りきった一作だが、最も秀逸に思えたのは“テーマの融合性”
一見、未麻とストーカーの対峙がメインのスリラー。
しかし、そこにミステリー要素を絡ませ、人間ドラマの要素まで内包されている。
嫉妬、憧れ、幻想など、無数の歪な感情と渦巻くどす黒いエネルギーがこれでもかと凝縮されていく。
これをわずか81分で描ききった、今敏監督の手腕は称賛に値する。

アイドルや俳優は一体どれだけのものを抱えて生きているのだろう。
常人ならば1日で頭がおかしくなるほどのプレッシャー、言葉にならないね。
見る側は一喜一憂し、飽きたら消費物として捨てるだけ。でも彼らだって人間なんだ…

周囲の大人に翻弄され、倒錯していく美馬を見ていると胸が苦しくなっていく、というよりは心が死んでいく。
それなのに…先が気になり見続けてしまう“圧倒的な中毒性”
狂気と破壊と偶像崇拝のケミストリーに身も心もとことん疲弊した。
そんな中…全てが繋がり、ラストピースのハマる瞬間が訪れる。
「ま、まじかよ…」と自然に言葉がポツリ。しばし呆然。
そこから怒涛の終盤を経て、最後に未麻が魅せる表情と台詞によってこの作品は完成する。
究極で至極のカタルシス。
満員の劇場、エンドロールで席を立つ人は皆無。
観客それぞれが抱いた思いを馳せ、余韻に浸る一体感は感慨深く、魂に刻まれた。
またいつか、こんな野心的な作品に出逢いたいな。
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