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パラダイムのpsychedeliaのネタバレレビュー・内容・結末

パラダイム(1987年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

正統派に見えて実は全身パロディというタイプがある。かの美空ひばりなどがそれで, 彼女は今でこそ演歌の女王のように言われているが元々は笠置シズ子の物真似として出てきたのである。ジャズを歌い, 時にはブルコメを従えてGS紛いの曲も歌った。代表曲の「川の流れのように」は巷で思われているようなド演歌でなく, むしろ演歌のパロディとして書かれた曲ではなかったろうか。彼女のド演歌はむしろ「柔」だと言うべきであろう。それにしたって都はるみや村田英雄などの所謂浪曲調と呼ばれていた(演歌という言葉が今のような意味で使われ出したのは恐らく藤圭子以降である)ジャンルの模倣だったはずだ。即ち美空ひばりという歌手は生涯を貫くスタイルというものを持たなかった歌手であるともいえる。
この『パラダイム』もそのテの映画である。 一見ザ・オカルトに見えながら実はパロディ満載の問題作なのである。
そもそも, 87年という時代のホラー映画界はスプラッター花盛りの時期を迎えており, 正統派の地道なオカルト映画など観客にウケるわけがないのだ。英ハマーがこの潮流に乗り切れずその歴史に幕を閉じたのは象徴的だった。だから『フライトナイト』(85年)でのヴァンパイア復活は, クラシカル・ホラーを愛好する向きには, 岡晴夫じゃないが「会いたかったぜ」の感を禁じ得ない人も多かったのではなかろうか。
『フライトナイト』の場合, 吸血鬼という黴の生えたモンスターを現代に甦らせるに当たり, かつてのゴシック・ホラーとは全く異なる意匠が施されていた。即ち, 80's 青春映画のフォーマットをそのまま応用したのである。これが効いた。古色蒼然たるヴァンパイア映画はポップでキッチュな青春ホラーへと生まれ変わったのである。『ドラキュラ'72』で撃沈したハマーとはここのセンスが違った。
本作『パラダイム』もこの路線を踏まえた。故に物語はライトな青春映画を基調にしている。ただし『フライトナイト』と違うのは, 本作は若者の恋愛や軽薄さを一つの強味として持ちながらも, 過去のオカルト映画や怪物映画の要素をもそこに混ぜ込んでしかも極端にカリカチュアしているという点である。
先ず物語はある古びた教会とその周囲で異常現象が起こるところから始まる。悪しき存在の復活を感じ取った神父は高名な物理学者に調査を依頼する。学者は自分のゼミに参加している研究生を伴い, 教会で実験を試みる。
この冒頭からして『たたり』や『ヘルハウス』を彷彿とさせる。故に学者や神父が主人公なのかと思いきや, さにあらず, 学者の助手で付いてきた理論物理学の研究生の若者なのであり, しかも彼は同じゼミに参加している女子学生をナンパして軽くベッドインしてしまったりしている。ここにヤング受けを狙った監督の意図が透けて見えるが, 当時の青春映画はアメリカ映画でもこんな簡単にカップル成立はしてなかったと思う。
学者の目的は超常現象の科学的立証であり, この点は『ヘルハウス』と同じだが, 「科学的」の部分が大変誇張されていて, 実験装置は本格的だし, しかも神学と量子論をごちゃ混ぜにした理解不能の世界観が提示される。この辺り, 『ダーク・スター』のラストで人工知能と人間のレスバトル並みの"口喧嘩"を描いてみせたカーペンターの面目躍如といえる。
「何かが復活する気配」といってるので当然操られた人々が現れる。ホームレスが教会の周囲をぐるりと取り巻く様はさながら『地球最後の男』並びに派生作品の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』である。若しくは『要塞警察』再びといっても良い。『要塞警察』自体が『リオ・ブラボー』を元ネタにしている。
しかしこのゾンビネタの最も誇張された点はアリス・クーパーがその一人に混じっている点である。今までのゾンビ映画でこんなにキャラの濃いやつはいなかった。
いざ実験が始まると教会にはゴカイやらミミズやら甲虫やら, 虫がたかってくる。これは『悪魔の棲む家』並びに『フェノミナ』だ。
そして色々あって仲間うちにもゾンビが生まれだし, ゾンビになったやつは口から液体を噴射して相手を取り込もうとする。これはリーガンそっくりだし, Prince Of Darknessに選ばれた金髪の女の肌がボロボロになってしかも妊娠するというのはリーガン+『エイリアン』である。こいつが手鏡で自分の顔を見て慄くのはお岩さんで, 光りだした鏡の中に手を突っ込むのは『死霊のはらわた』+『ポルターガイスト』だ。結局こいつを鏡の中に放り込んで割ってしまうというのが解決策なのだが, これとて何かしら元ネタがあったはずである。

全く以て楽しい映画だ。しかも本作の見事なのはこのような元ネタを知らなくても楽しさが少しも損なわれないという点にある。パロディはあくまで方法であってパロディそのものを見てもらおうとしていないせいだろう。正直なところ『エクソシスト』や『ヘルハウス』よりよっぽどコワい。序盤の冗漫ささえなければオカルト復古の機運を生む傑作になったかもしれない。

因みに脚本のマーティン・クォーターマスとはカーペンターの別名義で, クォーターマスとは『原子人間』などのSFシリーズの主人公の名前である。やっぱりパロディだったのだ。
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