高円寺ぱか

ペーパー・ムーンの高円寺ぱかのネタバレレビュー・内容・結末

ペーパー・ムーン(1973年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

傑作。スレたダメ男と賢い少女のコンビもの。大好きです。白黒で筋も演出もシンプル。なのに良い。これはイデアだと思う。

要諦はバランス。この場合は、モーゼのほんの一匙の良心と、アディの意外な純真が、きっちり均衡を保っている。

二人が無愛想に見つめ合う画、車に乗って同じ方向を向いている画がとてもいい。表情もどこか似ていて、リラックスしている。本当の親子だから当然だ。



葬式。駆けつけた男は天涯孤独となった少女を押し付けられ、唯一の身寄りの伯母の元に送り届けることとなった。

男は小狡い詐欺師モーゼ。少女の母の事故を利用して200ドル稼ぎ(2000ドルとふっかけたのに200ドルといわれすぐ受け入れてしまうあたりに詐欺師としてのセコさが出る)、車を買い替える。切符だけ買って少女を放り出そうとするが、少女ーーアディはきっちり見抜いていた。喫茶店で200ドルは自分のもの、車で連れていかなければ通報すると脅した上に、100ドル貸しがあるのだから稼ぐように言い渡すのだった。それからモーゼがパパなのか尋ねる。モーゼは言下に否定する。

結局モーゼはアディを車に乗せ、お金は彼女の小箱におさまる。

モーゼは聖書の詐欺師。新聞の訃報欄の家を尋ねて、妻の名入りで生前に注文していたと偽り聖書を8ドルで売りつける。

アディはスレた少女だ。夜はジャック・ベニーのラジオを聞きながらタバコを吸う。車で貧しい人たちとすれ違うのを気にして大統領の話題をだすなど、スレたような純真なような部分もある。

とある家で保安官が一緒にいたことで窮地に立つが、アディの機転で12ドルで売りつける。その夜、モーゼはアディに組もうと鹿爪らしく言うのだった。

アディは貧しい家には無償で聖書を渡し、富んだ家には24ドルの高額をふっかける。すれ違った貧しい人にお金を渡そうと言うが、モーゼは断り、言い争いに。

街で女と仲良くなるモーゼ。アディはこっそりベッドを抜け出して、バスルームで小箱の二重底にしまった母の写真を見て、香水を振りまいて鏡の前でポーズをとる。だが床屋で坊やと呼ばれてしまい膨れる。モーゼは彼女に釣り銭詐欺を仕込み、女の子らしい服を買ってあげるのだった。

祭。古代エジプトの墓から蘇った美女のストリップダンスというテントに出入りするモーゼに放ったらかしにされ、アディは紙の月に座る記念撮影を一人でやる。

翌日、モーゼはストリッパーのトリクシーとおつきのイモジンを同乗させると言い出す。デレデレのモーゼに後部座席へ追われたアディは膨れる。イモジンもトリクシーに不満タラタラのようだ。アディは一度乗車を拒否するが、トリクシーの「ほんの短い間だから。どんな男とも長続きしたことがない」という大人びたような、どうしようもないような告白で同乗を受け入れる。だが、モーゼがトリクシーに際限なく貢ぐので家計は火の車だ。

アディは仕方なく一計を案じる。イモジンを30ドル(故郷に帰れる金)で買収し、ホテルマンをトリクシーに浮気させ(25ドルもあれば道の真ん中だってパンツ脱いじゃうよ!)、それをモーゼに目撃させるのだ。ちょっぴり罪悪感が痛む。モーゼに大人になったら男を騙す女にならないよう約束してといわれ、アディは約束する。

途中、立ち寄ったホテルでアディが酒の密売人を見つけた。二人は隠し場所から酒を奪い、密売人に売りつけて625ドルを手に入れる。だが保安官に捕まってしまう。保安官は密売人の兄だったのだ。

警察署。アディが帽子に金を隠すファインプレーで没収を免れる。アディがトイレにいくフリをして逃げ出し、カーチェイスの果てにオンボロトラクターを盾に振り切る。その後、立ち寄った家で車の交換を申し込むが、農家は首を縦に振らない。モーゼが決闘を申し込む。心配するアディだが、意外にもモーゼは圧勝。オンボロトラックを手に入れ、悪戦苦闘しつつ州境を超える。

大きい街にきた二人は富豪から銀鉱を奪取する計画を立てる。だが保安官が追いつき、とっさに逃げ出すモーゼ。アディは待ち合わせ場所にこないモーゼを探すと、階段の下で血だらけになって発見された。金を全部取られてしまったらしい。アディはやり直せると励ますが、モーゼは伯母の家に連れて行く、という。

伯母の家は立派だった。アディは助手席の脇に封筒を差し込む。モーゼはすぐに去ろうとする。アディはパパなのか尋ねるが、やはりモーゼは否定する。伯母はアディを歓迎した。アディの夢のピアノもある。

モーゼはトラックが立ち往生。ふと封筒を手に取り、中を見ると、紙の月に腰掛けてニコリともしないアディの写真。するとバックミラーに走ってくるアディが映る。「もうごめんだと言ったろう」「まだ200ドル貸しよ」モーゼは帽子を地面に叩きつける。「モーゼ、見て!」坂をトラックが滑り出していた。「こい」といって二人はトラックに飛び乗る。そのまま、地平線まで伸びる道を、トラックは走りだす。