うめ

フィラデルフィアのうめのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
3.9
 私の中でジョナサン・デミと言ったら、やはり『羊たちの沈黙』。それが今作では一転、人間ドラマを描いていること、そしてそれが成功していることに驚いた。

 レクター博士や殺人犯への恐怖の演出が、今作ではエイズへの恐怖の演出へと変化していた。エイズそのものへの恐怖や不安、ゲイやエイズというイメージから来る誤解や偏見を、人物に近いカメラで上手く描いていた。またそのカメラは恐怖や偏見だけでなく、人間の交流、もっと言うと愛を映し出していた。フィラデルフィアというタイトルにも頷ける演出だ。

 そしてそうした演出に加え、ストーリーも素晴らしいものとなっている。ただエイズ患者やゲイという偏見にさらされている人を救おうと弁護士が奮起するというわかりやすいストーリーではない。エイズ患者やゲイ、異性愛者といった区別なく、偏見や誤解がそれぞれの言動からいかにして生じ、それがどれだけ人を傷つけているかという、この手のテーマの本質を突いたストーリーになっている。観終わると、きっとマイノリティに関する問題がより身近に感じられるはずだ。

 トム・ハンクスとデンゼル・ワシントンの演技がこうした演出、ストーリーにリアリティを与えているのも注目すべき点だろう。彼らがいなければ、これだけの人間ドラマに仕上がっていないのではと思われる。

 あらゆる方に一度は観て頂きたい一作。
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