半兵衛

雁の半兵衛のレビュー・感想・評価

(1953年製作の映画)
3.5
将来のある学生と家族のために妾になった女性の一瞬の悲恋(しかも女性からの一方的な恋)といういかにも明治ものらしいドラマだけれど、女性の境遇を冷徹に描いたりそんな状況でもあえて自分の生を主人公が受け入れるラストが溝口門下生である脚本家・成澤昌茂らしい。そしてそんな女性像が知的で繊細な心理演技を得意とする高峰秀子によく似合っている。

傘や本など小道具を巧みに使い明治という時代を匂わせる豊田四郎監督の演出が巧み、2つの映画撮影用ステージを壁をぶち抜いたりして作り上げたという原寸大の坂も圧巻。

高峰を妾にする東野英治郎の下衆さとそんな人生への悲哀を感じさせる演技や、おっぱいポロリまでしてだらしない中年女性を体現する東野の奥さん・浦辺粂子も印象的(ちなみに溝口健二監督とプライベートでも親しかった浦辺は成澤とも交流があったらしく、成澤が監督した映画作品には全て出演している)。

ただ時折高峰の演技がぎこちなそうなのな気になる、メロドラマのような作品が気に入らないのかそれとも東野英治郎に体を触られる場面で胸まで手を入れられたことが気に食わなかったのか(高峰本人は後年のインタビューでこの場面の撮影で豊田監督にセクハラまがいの演出をねちねちとされたことにちょっと怒ったことを語っており、そのせいか豊田監督とは『恍惚の人』まで20年近く仕事をすることは無かった)。

高峰の情けない父親役で日本映画創世記に活躍した映画監督にして豊田監督の師匠でもある田中栄三が出ているのも見所。
半兵衛

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