クシーくん

パリは燃えているかのクシーくんのネタバレレビュー・内容・結末

パリは燃えているか(1966年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

パリ解放のレジスタンス蜂起を描いた有名な同名ノンフィクションの映画化…なのだが、映画製作にあたって当時存命だったシャルル・ド・ゴールからの強い検閲を受け、また本作にも登場するフランス共産党などからも口出しされていたようだ。そのせいか、ド・ゴール派とフランス共産党派の扱いがどっちつかずでかなりフラフラしている印象を受けた。良く言えばどちらも立場は違えど同じく首都奪還のために頑張ったという中立公正な視点に留まったと言えるが、ややもすれば群像劇として主軸が右往左往して定まっていない印象を受けた。

反面、ゲルト・フレーベ演じるドイツ側のコルティッツ将軍は自らの立場故の重責と、狂気に陥った総統の誤った命令を実行するか否かに苦悩しているものの、その矜持は一貫しており、観ていて安心出来る。皮肉なことにどちらが解放戦線の主導権を握るかで軽く揉めてるレジスタンスよりも、パリを如何に燃やさずに済むかに思い悩むコルティッツ将軍に共感的な目線を注いでしまう。

全編に渡る大々的な市街ロケは筆舌に尽くし難い。パリ全土180箇所で行われたというのに、あの巨大都市から日常風景を排して見事に1944年8月・パリの戦場再現を敢行している。ロケ撮影としては私の今まで観た中で、或いは知る限りで最も大規模な撮影だ。これだけでも正直本作は観る価値があるだろうと思う。その歴史と美を湛える都市パリ炎上という現実が、美しく撮られているだけに、目前に迫る恐怖と説得性とを否応にも増す。

非常に残念なのはこれだけパリ・フランスを強調した作品でありながら、冒頭のドイツ語とごく一部を除けば全編に渡ってほぼ英語のみという点である。外国が舞台だから英語はおかしいなどという難癖は普段であれば言わないが、この作品に限っては鼻母音たっぷりのフランス語によるウィットのある掛け合いを観たかった。

地上最大の作戦に対抗して撮られたという噂のある本作、流石のオールスターキャストで、なんてことはないチョイ役にもどこかで観たことのあるあの人が使われている。製作費分くらいは回収出来たのかもしれないが、予算が大丈夫だったのか少々不安な映画である。パリに憧れる好青年アンソニー・パーキンスの演技が特に良い。

勿論パリ解放は連合軍による部分がかなり大きいし、また解放後のパリが少なからず美談ばかりとは言い難かったことも今日の歴史では衆目の一致する所である。だが、例え映画的脚色といえどラストシーンで民衆の歓声と共に、フランス占領以来4年間の埃を被ったノートルダムの鐘が鳴り、パリの全景が現代のカラー映像で再び垣間見える演出の妙に圧倒され、深く心に刻まれたことは印象深い。大作に相応しい堂々たるラストである。
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