NORA

ニュースの天才のNORAのレビュー・感想・評価

ニュースの天才(2003年製作の映画)
4.2

エアフォースワンの機内にも置かれる名門政治雑誌で起きた、若手スター記者による記事捏造事件の顛末を描く。
これはふたつの意味で倫理をめぐる物語である。ひとつは当然ジャーナリズムの倫理、もうひとつは上司と部下の倫理。ヘイデン・クリステンセン演じるスター記者は主人公ではあるが、この物語においてもっとも興味深い人物とはいえまい。作中で示されているように(あるいは、DVDに収録されている本人へのインタビューを観ても分かるように)、彼は単に自己顕示欲に囚われた病的な嘘つきにすぎない。たまたま大騒ぎになっただけで、こんな人間はどこにでもいる。
注目すべきは、彼の2人の上司、前編集長ケリー(ハンク・アザリア)と新編集長チャック(ピーター・サースガード)の存在である。すなわち、片や有能で人気者、片や凡庸で人望なし、この対照的な2人が、それぞれジャーナリストとして、そして上司としての倫理をどれほど誠実に果たしていたかという問題だ。ケリーは確かに身を犠牲にして部下を守る理想的な上司であったが、その結果はどうなったか。一方で、周囲に疎まれつつもあくまで事実の追求に努めたチャックは、最終的にこの雑誌を救うことになる。たしかに信じることは大切だ。だがもっと大切なのは、何を信じるかということだ。部下を信じるか、あるいは自らの胸に刻んだプロとしての矜持を信じるか。馬が合わないと感じていた上司が、実は裏で自分の失敗をカバーし続けていたなんて経験はないだろうか。チャック編集長や、あるいはその上司が信じていたのは、果たしてどちらか。人の上に立つということは、かくも複雑で難しい。
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