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めしのKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

めし(1951年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

成瀬巳喜男は『浮雲』が合わなかったけど、本作はせっちゃんも出てるし、暗くなさそうなので鑑賞しました。
なんというか、退屈なガーエーでした。批判するような作品じゃないですが、つまんないんです。


大阪で生活する結婚5年目の夫婦である、夫とせっちゃん。せっちゃんは専業主婦で子どもはいない。夫は口下手で、コミュニケーションが苦手なタイプ。ご飯の時も「めし」しか言わない。そんな日々にせっちゃんはうんざりしてます。
そんな2人のところに、夫の姪っ子サトコが現れます。サトコは天真爛漫で自由です。せっちゃんはサトコにイラつきながら、別の生き方を考え始める…というストーリー。


昨今のシスターフッド映画であれば、せっちゃんは仕事見つけて自立して夫とサヨナラしそうですが、本作はまったく逆。実家の東京に戻ったせっちゃんは、シングルマザーの厳しい現実を目の当たりにしたり、実家が持っているあたたかいぬくもりの中で安らいだりしているうちに夫が恋しくなり、やっぱりせっちゃんが恋しくなった夫とスムーズに寄りを戻して、『好きな人に尽くすのが女の幸せ』みたいな21世紀なら大炎上間違いなしのセリフで終わっていくという、さすが昔の映画って展開でした。

自由奔放なサトコは、地道に生きているせっちゃんの影です。せっちゃんの生きなかったもう一つの人生と言えます。なので、サトコのように自由に生きようとチャレンジするのは必要なイニシエーションなのです。
で、本作のユニークなところは、死と再生が派手な変容ではなく価値の再発見に帰結することです。死と再生も常にドラマチックな変容をもたらすわけではなく、ある意味元さやに戻るのも、古い自分を殺す必要があるのかなぁと思いました。

あと、ぬくもりや安らぎの大事さをうたっているのはなかなか良いと思いました。せっちゃんも夫もホッとするとよく眠るんですが、そういう安全感がちゃんと描かれているのは悪くなかった。
安らぎ>自立という価値観も、逆に新しいとも言えそうです。


とは言え、なんか観ていてつまらないんですよね。何故つまんないのか。なんか全体的にチンタラしていて、やたらと長く感じたからかもしれません。

ぬくもりの大切さはわかるけど、やはり自立が含まれないと片手落ちだよなぁと感じざるを得ない。自立なき安らぎは依存を生むだけではないでしょうか。
サトコがただのガキみたいな描き方も、なんとなく実直>奔放みたいな道徳的な堅苦しさを感じました。夫も口下手で誠実な人で、他の旨味も特に感じない。似たような倦怠感モノである小津の『お茶漬けの味』だと、夫がなかなか大物なんですよ。本作の夫はほんと普通で単純に魅力がない。
なんだか、当時の自分は善人と疑わない観客の道徳感を慰撫して、保守的な価値観は正しいんだと無意識にヨイショしているような印象。

とりあえず成瀬ミキティはとりあえず2作で打ち止め。嫌いじゃないけど好きでもない。無関心ですね、成瀬巳喜男。
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