Kientopp552

めしのKientopp552のレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
4.0
 成瀬巳喜男と言えば、今では、家庭映画の、女性映画の「巨匠」であると言われているが、家庭映画の「巨匠」言えば、小津安二郎がいる。その意味では、成瀬もいた松竹に、二人の「小津」は必要なく、成瀬がPCL、後の東宝に移籍したのは、必然であった。成瀬は、東宝の「小津」になったのである。

 一方、女性映画の「巨匠」と言えば、溝口健二がいる。男に翻弄される、女性としての「業」を背負った「女」を運命的に描かせれば、その右に出る者はいないと言われた溝口である。とりわけ、同年作の『銀座化粧』で主演を演じた田中絹代は溝口作品で有名になった女優である。

 いわば、成瀬の監督としての立ち位置は、「小津」と「溝口」の間である。その間で、どうやって自らの「特長」を出していくのか。1950年には、成瀬の助監督を一時やっていた黒澤明が、『羅生門』で、ヴェネツィア国際映画祭で「金獅子」賞を取り、日本映画の存在を世界に知らしめたと同時に、黒澤は、「世界の黒澤」になっていた。

 こういう中で前作である『銀座化粧』で、「溝口組」の田中を使って、銀座の夜の世界を描いては、「溝口」スタイルと比較される。シングル・マザーとして、かつての旦那に金をせびられながら、一人息子を健気に育てる家庭劇とすれば、松竹・家庭劇の「小津」と比較される。そういう中途半端の立ち位置では、成瀬も立つ瀬がないであろう。

 こういった自己の、監督としての存在意義をいかに見出すか、そんな模索の中で、『銀座化粧』と同年に撮られた作品『めし』が、成瀬が「第四の巨匠」となるべき道を開いてくれたのである。時代劇ではなく、現代劇を撮る。そして、女性を主人公にして撮る。原作は女性作家のものとし、その脚本を女性脚本家に書かせる。この「方程式」が成立した時に、成瀬の監督としての「特長」が顕在化したのである。
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