ななし

めしのななしのレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
4.5
映画史に残る名言「感情をベタつかせて、人に無意識に迷惑をかける人間は大嫌いだなあ」だけでも、本作には観るべき価値がある(もちろん映画全体も素晴らしいが)。

大恋愛の末にそれぞれの故郷を飛び出し、大阪で暮らす岡本初之輔(上原謙)と三千代(原節子)の夫婦だが、結婚から5年の月日が流れて倦怠期へと突入していた。タイトルにある「めし」も、初之輔が三千代に食事を求めることを彼女が「お女中みたいね」と皮肉ったことに由来する。

そんなふたりのもとに、初之輔の姪にあたる里子(島崎雪子)が押しかけ、彼女の奔放な振る舞いと初之輔の妙に甘い態度により、三千代はじわじわとストレスを貯めていき──というストーリー。

この里子というキャラクターがとんだファム・ファタールで、初之輔をはじめとした三千代の周囲の男性に片っ端から寄りかかっては、ワガママ放題の行動をとる。さらに三千代が家を離れて向かった母と妹夫婦が暮らす神奈川の実家・村田家にも里子は現れるが、ここで妹の婿である信三が前述した名言を放つ。ここまで男性を利用することで自由に振る舞ってきた里子に強烈な鉄槌を下すこの場面には、思わず快哉を叫ぶとともに、ここまで見事にコントロールしてきた里子へのヘイト値を一気に回収する話運びの上手さに感服したしだい。

ラストの「女は好きな男に寄り添って生きることが幸せなのだ」的な結末とナレーションで語られる価値観はさすがに昭和やなあ、という感じだが、少し調べてみるとここは映画オリジナルのラストで(原作は未完)、原作者の林芙美子のファンからはけっこう批判されているらしい。

とはいえ、映画の流れとしてはキレイにまとまっているし、結末を差し引いたとしてもじゅうぶんすぎるくらいに名作だと思うのだ。
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