むさじー

めしのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

めし(1951年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<戦後復興期の人間模様と女の幸福>

恋愛結婚をして東京から大阪に越してきて5年、夫の初之輔と暮らす三千代は、平凡な毎日の連続に結婚当初の希望や輝きを失いつつあると感じていた。そんな夫婦の元に、高飛車でわがままな姪の里子が転がり込んできて、三千代の中に徐々に苛立ちや嫉妬の感情が芽生え、遂に実家に帰った三千代は、自分にとって幸福とは何かと考え直すのだった。
本作が作られた1951年には小津安二郎『麦秋』も制作されていて、小津作品の原節子は明るく凛とした女性を演じていたが、本作では倦怠期の生活に疲れた妻で、ハツラツとした姪と対比するかのように落ち込んだ表情の主婦を演じている。それでも小津作品とは違った自然な生活感が垣間見えてとてもいい。ちょっとした苛立ちや嫉妬で覗かせる表情、視線が強く印象に残った。
特に終盤、里子の自分勝手な行動を実家の義弟が非難するシーンがある。その場にいた三千代は、その非難は自分にも向いていて、里子と同様に自分も実は迷惑な存在で、ここは自分の帰る場所ではないと気づかされる。その落胆と切なさ、言葉にならない思いが表情から伝わってきた。
それから“女の幸福”を語るラストシーンは、ハッピーエンドと言っていいのか微妙なところ。夫は妻の不在によって日常生活の不自由を知り、妻は夫の経済力なくして生活できない現実を知る。原作が林芙美子の未完の絶筆なので原作者ならどんな結末にしたか興味は湧くが、戦後復興期の女性の心理としては分からなくもない。結局、互いに折り合って、不満を言いながらも落ち着くべきところに落ち着く、これが夫婦の機微なのかも。
平凡な庶民の暮らしを淡々と描いてそれなりのエンタメ作品に仕上げる職人成瀬の真骨頂が見える。
むさじー

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