なべ

スイミング・プールのなべのレビュー・感想・評価

スイミング・プール(2003年製作の映画)
3.6
 シャーロット・ランプリングはぼくに性のめざめを促した特別な女優。思えばSっ気もこの人に開拓された気がする。レッド・スパローの教官やDUNEの教母など、老けてなお美しく、ちょい役であっても彼女が出てくると思わず背筋がしゃんとする存在。
 名画座でオゾン特集が組まれた折に観ると決めていたが、どうもそんな企画はなさそうなので配信で観た。

 最初は中年女性の内に湧いてくる若さへの嫉妬と羨望みたいな話かと思って見ていたのだが…。
 快調だった創作活動は、突然帰宅したジュリーによって破られる。彼女の家でもあるので出て行けとは言えない。
 ジュリーが寝静まってから食べかけのフォアグラを盗み食いするシーンにはハラハラさせられたし、飲んだワインに水を足すところで英国人らしい腹黒さも感じた。
 そんな狭い空間で起こる些細な出来事を楽しんでいたのだが、やがて、え? ええっ? どゆこと? と予想外の展開に見舞われた。
 これは現実? それとも妄想? いやサラは作家だから現実と想像と創作か。描写の曖昧さが巧みで、実際に起こっていることなのか、頭の中の想像なのか、あるいは作家ならではの叙述なのかと大いに惑わされる。
 どこかに正しい答があって、それを解くヒントが散りばめられてるってつくりではないので、好きなように解釈できるし、捉え方次第で幾通りものストーリーを反芻できる仕掛けが緻密。どう解釈してもおもしろいってのが興味深く、曖昧さをうまく機能させるために、結構繊細につくられてるってことに気づく。
 そもそもサラが推理小説作家って設定がよく効いてるのだ。疑惑を解き明かしたいという衝動も、証言や表情から導き出す推理も、証拠を隠滅する手口も、何もかも彼女がミステリー作家だってことで納得できるんだから。

 ちなみにぼくの解釈は、ジュリーがやってきてからの話はすべてサラの創作。あのプールの周りで起きたあらゆる出来事は、サラが別の出版社で上梓した新刊の内容であるって説をとりたい。もちろん、実際に殺人はあったとしてもいいし、ジュリーはジョンの娘ではなく、娘になりすましたヤバい女だったって解釈もあり。

 観終わったあと、こんなに思索にふけった作品は久しぶり。でもこれはシャーロット・ランプリングだから許せた仕掛けかも。そもそも他の女優だとこんな仕上がりになってないだろうし。やっぱりいいわ、彼女。

 ちなみに裸はふんだんに出てくる。おさせのジュリー役サニエはもちろん、シャーロット・ランプリングも脱いでます。57歳とは思えない肢体を惜しげもなく。さすがにもう欲情することはないけど、相変わらずきれい。

 自分が好きだった女優が見苦しい整形で容貌を崩していくのはすごくガッカリするけど、こんな風に美しい老いを見るのは嬉しい。歳をとるのは悪いことでも恥でもないのだと、当たり前のことを実感させてくれるから。
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