けーはち

ヒックとドラゴンのけーはちのレビュー・感想・評価

ヒックとドラゴン(2010年製作の映画)
5.0
ドリームワークスによる、3DCGアニメーション作品。少年とドラゴンの友情を描いたファンタジー冒険譚の傑作。

★本作の舞台は「害虫」ドラゴンを退治しながら生きるバイキングの島。技術者肌で気弱な主人公の少年ヒックは、バイキングの頭領ストイックの息子。ある日、ヒックは「ナイト・フューリー」と恐れられた漆黒のドラゴンを試作の道具で捕縛したが殺すことはできず、エサを与えて助けてしまう。そして「トゥース」と名付けられたドラゴンとヒックとの間の奇妙な友情、そしてドラゴンとバイキングとの関係の変化が始まる。

★ディズニー・ピクサーという大横綱を相手に取るためか「シュレック」等ドリームワークスの長編アニメーションの傾向として「自分(達)は強者側ではない、正道でない、アウトサイダーだ」というコンプレックスを感じさせる要素が多いように思える。本作はその見せ方が上手。勇猛果敢で好戦的なバイキングたちの中にあって独りで恐れと弱さを抱く逸れ者のヒックこそが敵のドラゴンに寄り添い、助け合うことができた。

★CGはバイキングの毛のモサモサの質感などが全編にわたって人形劇のようで良い。特に相棒となるドラゴン「トゥース」の描き方が可愛らしい。ドラゴンは爬虫類ベースなのだが、トゥースのつぶらな目や振る舞いはネコ科のようで、獰猛で気難し屋なのに、気を許すと身近になってくる。また、飛行シーンにも眼を見張るものがある。トゥースと共に空を飛ぶ時のマニュアルを作るヒックだが、風に煽られてそのマニュアルを放り出してしまい、ついには互いの信頼関係だけで空を飛ぶ。その瞬間の開放感に涙腺が緩んでしまった。

★偶然の邂逅、敵味方を超えた関係の蜜月から、やがてじわじわと露呈する秘密、別離、葛藤、そして最終決戦に向けての行動と、作劇のテンポが良く、脇を固めるプライドが高く手の早いヒロインや、嫌味なイジメっ子やドラゴンオタク、ケンカばかりの双子など、バイキング候補生の仲間たち、あるいは戦闘訓練のために捕獲されたドラゴンたちも、個々のキャラが立っていて飽きさせない。

★知恵と勇気を絞った果てにヒックは一生取り戻せない手痛い犠牲を払う。残酷にも思える結末は子供向けのアニメとしては賛否があろう。ディズニーなら絶対やらない。けれども、彼らの関係の出発点であるトゥースの翼の観点からしたらフェアとも言える。手を差し伸べることには甘っちょろい感情だけではなく相応の犠牲と覚悟を問われる。敵味方や異種族、思想信条を異にする複雑な関係なら特に。そのシビアな認識を突きつけてくるのが本作だった。

★老若男女問わず、誰でも本当に見て損はないと思えるし、友人や家族でも話題にしたくなる、そんな作品だと思う。