カタパルトスープレックス

女が愛情に渇くときのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

女が愛情に渇くとき(1964年製作の映画)
4.4
ジャック・クレイトン監督による心理劇です。『回転』(1961年)と『華麗なるギャッツビー』(1974年)の間に挟まれて目立ちませんが、これも尋常ならざる作品です("Our Mother's House"(1967年)という映画もあるのですが、これはFilmarksには登録されていないようです)。

原作はペネロペ・モーティマーの自伝的同名小説です。

ジョー(アン・バンクロフト)は妊娠しやすい体質で、すでに二人の夫と七人の子供を産んでいます。ある日、ジャック(ピーター・フィンチ)と出会い、三回目の結婚をします。最初は幸せな結婚に見えたのですが徐々に歯車が狂ってくる……という話です。

どことなくジョン・カサヴェテス監督『こわれゆく女』(1974年)に近い感覚です。ジョーは徐々に狂っていきます。それはジャックに原因があるように見えます。しかし、ジョーも「信頼できない語り手」なんです。精神科医への嫉妬のような態度。ハロッズでのナーバスブレイクダウン。美容院でのやりとり。タバコの煙の逆回転。長男たちの態度。彼女の視点をそのまま信じていいのか分からない。ジャックも子供嫌いで浮気性のクソ野郎に見えることもあれば、子供好きでジョーを労る優しい夫に見えることもある。何が現実で、何が妄想なのか。

『回転』もそうでしたが、きっちりとした答えをジャック・クレイトン監督に提示してくれません。解釈は全て観客に委ねられています。

この映画でアン・バンクロフトは英国アカデミー賞、カンヌ映画祭やゴールデン・グローブ賞で主演女優賞を獲得します。確かにこの映画でのアン・バンクロフトの演技は素晴らしかった!迫力は『こわれゆく女』のジーナ・ローランズに一歩譲りますが、それは演じるキャラクターの違いでもありますからね。