あなぐらむ

ときめきに死すのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ときめきに死す(1984年製作の映画)
3.7
なぜこの年にこの映画があったのか、というのは後年に色々と歴史の傍証として考えられてもいいと思う。そんな異形の一作。
森田芳光は「愛と平成の色男」が一番好きなんだが。

沢田研二の佇まい勝負みたいな映画なんだが、彼は寧ろ透明な存在に近くて、原作では主人公であったりする杉浦直樹の粒立ちが抜群に良い。真面目だけではなくちょっとやんちゃなチョイワル親父なのがとてもいい。
樋口可南子も美しく、清心なのに妙に艶めいてて大人っぽく、映画の格を上げている。
宗教家という大きな「家族」の軛から逃れようとして失敗する若者たちの話を、青春の失敗を描き続けた岡田裕がプロデュースするのが面白い。何よりも前田米造の見事な撮影に息を飲む。終盤に登場する驚きのカメラワーク(ドローンとか無い時代ね)、ラストの駅の寒々とした光景。

NCPにせよアルゴにせよ、こういう空疎な、その実何も無い、みたいな映画は岡田裕のオハコな気もする。
不全の映画という意味では、藤田敏八と相通ずるというか。ラストショットだけで成立してしまうような、そんな映画。