多比良

泳ぐひとの多比良のネタバレレビュー・内容・結末

泳ぐひと(1968年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

バート・ランカスターは「地上より永遠に」の演技が渋くて堅実なイメージがあったので、この映画の、海パン一丁で家を目指してひたすらプールで泳ぎながら家に向かう不気味な役が意外性があって面白かった。

物語に関して言うなら、
冒頭のセリフで「こんな天気の良い日は珍しい」というのがあってその割にちょっと雲が多くて違和感があったけど、伏線とまでは言わないけど演出として意味のある所だと思う。(違和感といえば、主人公がナチュラルに木々の中を裸足で移動するところも。)
そんな随所の違和感が進むに連れて少しずつ解き明かれていく一種のミステリー映画のようだった。

(空模様について触れる場面はもう一つあって、主人公は雲を昔見た外国の壮麗な白い建物に喩えてる。つまり天気が良いというのは、主人公の思い出の中のようにという意味でのことだったのかもしれない)

場面転換も夏の瑞々しい葉→トネリコの木→道の枯れ木→落ち葉と雨風 というようにまるで演劇の舞台装置のように大味な演出で分かりやすい

ファイブ・イージー・ピーセス、ハロルドとモードのような心の傷にフォーカスしたアメリカン・ニューシネマ作品のようでもあるけど、
この映画は舞台が丸ごと心象風景の比喩とも言い換えられうるもので、その中を主人公が泳いで家に帰る(現実に帰還する)というのは認知心理のプロセスのようでもあって面白い。
認知の側面に引きつけていうなら、物語が佳境に進むに連れて、それまでギリシャ神話の英雄のように若々しかった主人公が震えや疲れ(プールから上がる為にハシゴを使う)を見せるようになり、身体的な衰えから現実を追認していく構成も素晴らしい

アメリカン・ニューシネマの中でも特に素晴らしい名作だと思う
多比良

多比良