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告白の一人旅のレビュー・感想・評価

告白(1969年製作の映画)
5.0
コスタ=ガヴラス監督作。

1950年代前半のプラハを舞台に、突如秘密警察に連行され尋問と拷問の日々を強いられる外務副大臣・ジェラールの姿を描いたサスペンス。

1951年のチェコスロバキアでチェコ共産党書記長ら十数名の政府高官が不当に逮捕・処刑されたスランスキー事件を題材にした社会派の作品で、『Z』『戒厳令』とともに構成される三部作の中の一作。主人公ジェラール役はガヴラス映画の常連俳優イヴ・モンタン、ジェラールの妻を『嘆きのテレーズ』『悪魔のような女』のシモーヌ・シニョレが演じる。本作のシモーヌ・シニョレは歳を取っているせいか、ただのおばさん化していて往年の色気はほとんど感じられない。肉つきのいいムチムチボディは健在だったが...。

西側のスパイ容疑で秘密警察に連行された外務副大臣のジェラールが、取調官によって尋問と拷問を強いられる日々をただひたすらに映し出す。
トイレも机も何も無い狭い独房に押し込められ、「歩け」という命令に従い黙々と歩き続ける。「飯だ」の合図でようやく食事にありつけたかと思えば、数秒後には終了を告げられ皿を強制撤去されるという、餌を没収された犬のような扱い。寝る体勢にも細かい指示があり、横向きに寝ることはできず常に仰向けで寝なければならない。就寝中も容赦なく邪魔が入り、看守の合図で「3225」という自分に与えられた囚人番号を答えなければならない。
尋問はアメとムチを利用した巧妙なもの。「この供述書に署名しろ」と迫られ、渋々署名に応じると「よし、もう寝ていいぞ」と念願の就寝許可が下りる。一方で、少しでも逆らえば目隠しをされ拷問部屋に連行される。拷問のシーンは映像的に地味だが精神的に追い詰められるやり口。ひたすら腕を上げ続けなければならず、やめれば冷水をぶっかけられる。これの繰り返し。

ジェラールは立派な共産党員で、もちろん西側のスパイではないし、トロツキスト・チトー主義者・シオニストでもない。この映画の恐ろしさは、次々に政府高官の逮捕・処刑を実行していく秘密警察の背後に、ソ連のみならずその衛星国にまで恐怖政治を敷くスターリンの狂気が充満していることだ。元を辿ればスターリンの粛清が無実のジェラールに影響を及ぼしているにも関わらず、その事実を知らない当のジェラールは根っからのスターリン主義者であるという強烈な皮肉。劇中、スターリンに対するジェラールの脳内イメージ映像が挿入されるのだが、そこに映るスターリンの姿は美化されていて現実の恐ろしさとは無縁。誰もいない畑で一人熱心に植樹するという“優しい”顔のスターリンの虚像が映し出される。
味方であるはずの共産党員ですら騙し、共産主義の正当性を盲信させ、最終的には虫ケラのように抹殺してしまうソ連・スターリンの狡猾さ、非人間性が浮き彫りにされる。父の影響で幼い頃から信じ続けた共産主義の、知られざる恐怖の真実を目の当たりにしたジェラールの姿は悲しく哀れで、絶望的だ。

ちなみに、劇中挿まれるプラハのスチール写真(静止画)はSFの傑作『ラ・ジュテ』を撮ったクリス・マルケルが手掛けている。そういえば、ジェラールが連行される際に目隠しとして使用される奇怪な黒レンズの造形も『ラ・ジュテ』に登場する物とそっくりだ。
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