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告白のukigumo09のレビュー・感想・評価

告白(1969年製作の映画)
3.9
1970年のコスタ=ガヴラス監督作品。前年の『Z(1969)』に続く社会派作品だ。『Z』は架空の国の物語を装いながら、独裁政権下のギリシャでの左翼政治家グレゴリウス・ランブラキス暗殺事件をモデルにしていた。フランスではかつて政治的映画が成功した例はないと言われていた中で、興行的に異例の大ヒットを飛ばし、アカデミー賞の外国映画賞やカンヌ国際映画祭審査員特別賞など数多くの映画賞を獲得した。コスタ=ガヴラスは『Z』の編集中に『告白』の原作に出会っている。コスタ=ガヴラスが当時ジャーナリストで後に9時間半に及ぶホロコーストの実態を描いたドキュメンタリー作品『ショア(1985)』を撮ることになるクロード・ランズマンとのディナーの際、ランズマンに勧められたがアルトゥール・ロンドンによって書かれ1968年に出版された『告白』であった。『告白』はチェコスロバキアの共産党の高官だったロンドンを含む14人が急進的なスターリン主義者によって突然逮捕され、身に覚えのない罪を拷問により自白させられるなどし、トロツキストとして断罪されたスランスキー事件を描いている。14人中11人までが無残にも絞死刑を言い渡され、生き残ったロンドンが綴った恐るべき実体験が『告白』である。映画化の際、チェコの政変と重なりチェコとの合作が困難となったため、プラハでロケはできなくなりフランスのリールで撮影している。

1951年のある日のプラハ、ジェラール(イヴ・モンタン)は何者かが尾行しているのに気づいていた。人気のない裏道で2台の車に挟まれた彼は、中から出てきた男たちによって手錠をかけられ、目隠しされて連れ去られてしまう。逮捕という言葉より拉致や誘拐の方が近いだろう。ジェラールという名は第二次世界大戦中のレジスタンスの時の通り名で本名はアルチュール・ロンドン。このジェラールは国家に対する長年の貢献が認められて外務次官を任されるような男である。しかし彼は国家から疑われはじめていた。スターリン主義による粛清の波は、1949年頃からブダペストやソフィアまで来ていたが、ついにプラハまで押し寄せてきたのだ。連れて来られた場所は殺風景な廊下、監房、地下室が印象的で、ジェラールは理不尽な罪を着せられ拷問を受ける。そこはまさに暗黒の世界である。それもただの暗黒ではない。睡眠も禁じられているためライトをギラギラと過剰に当てられた暗黒なのだ。執拗に繰り返される訊問は、時に残酷に時になだめるように、検察官のコウテック(ガブリエレ・フェルゼッティ)によって行われ、ジェラールの精神を追い込んでいく。
突然姿を消した夫を探し出そうと妻リーズ(シモーヌ・シニョレ)はあちこち駆け回り、捜索の協力を依頼するが返ってくるのは曖昧な返答だけである。それどころか彼女は住んでいる家や仕事場を追われることになってしまう。容疑者たちの裁判や夫が自白したことをリーズはラジオで知ることになる。ジェラールは死刑だけは免れ、重労働つき終身刑という判決が下される。

本作では『Z』でも用いられていたフラッシュ・フォワードという技法が使われている。現在の時制より先のことが突如挿入されるこの技法で60年代にフランスで暮らすジェラールが描かれる。息苦しい拷問や生き残るのかといった物語の流れを止め、彼が安全であると先に提示することで、この映画は単にサスペンスを煽るものではなく、スターリン主義の恐怖を描くものであるという宣言となっている。コスタ=ガヴラス作品は『Z』と本作『告白』と次作のウルグアイで起きた事件を基にして作った政治スリラー『戒厳令(1973)』で三部作となるので合わせて観るとより楽しめるだろう。
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