この題材で何でこんなに面白いんだ?と観るたびに思うのが澤井信一郎の映画。
十朱幸代の赤い上着が何よりも映画的で素晴らしい。祐木奈江が修繕作業を行なっている寺を囲う樹々の緑と落ち着いた色合いの日本美術が占める画面を一際目を奪う艶やかな赤が通り過ぎ、母娘がついに視線を交わすその瞬間までこの上無くスリリングなサスペンスが持続する。
十朱幸代が体調を崩して不健康な顔色を誤魔化すかのように口紅を塗るのだが、この赤色が原田龍二が子猫を助けるためにトラックに轢かれる場面で反復されて仰反る。予想以上に出血してる上に口の周りが真っ赤に染まり、余りにもベタ過ぎる展開からギョッとするようなショットが導き出される。