せいか

プリンセスと魔法のキスのせいかのレビュー・感想・評価

プリンセスと魔法のキス(2009年製作の映画)
-
12/01、テレビ、金曜ロードショーで放送されたものを視聴。吹替版。
これが初視聴だが、前から本作のヴィランソングは気に入ったのでたまに聞いていた。下地となっているのが童話の『かえるの王さま』(とどうやら現代小説もらしいが)なのや、放映当時だったか全国の(?)プリンセスもといシャーロットたちがカエルにキスして病院送りになった逸話はなんとなく又聞きして知っていた。
本作、とにかく美術がずっとすごいので、少なくともその点で一見の価値がある。美術はほんとすごい。

内容に関してはいつものディズニー、いつものアメリカナイズというか、その思想の体現というかなので、まあ、いつものことながらそこに関しては冷めた目で観ていた。

舞台はニューオリンズとなんとなくモダンな時代のアメリカって感じで、ヒロインの相手役の王子の国もたぶんファンタジーという設定だったりはしているが、ヒロインの戦士した父親の遺影のシーンでww1後から与えられるようになった徽章(殊勲十字章)が一瞬映るので、どうやら作品時代は少なくともww1後ではあるらしい。たぶん、ww2に入るまでの間の、一気にアメリカがブイブイ言わせ始めた辺りなのだろう(車社会の走りみたいな描写もあったし)。それ以外はいかんとも特定しにくい。移民が爆発的に増えたりとか、黒人の北への大移動とか(それでジャズが広まったのだけど)、恐慌からのルーズベルト時代、ニューディール政策、ww2(とかあるわけだけど、そういうものの気配はまあいつものことながら作品からは押しつぶされて見えなくなっている。たぶんww2までは行ってないとは思うが。

で、まあ、アメリカ南部のニューオリンズで主人公も少なくとも貧しいアフリカルーツまたはカリブルーツの人でという設定。父親と夢見たレストラン経営のために毎日とにかく働いてへお金を貯める。本作は、プリンスにしろヴィランにしろ、メインキャラクターの人間たちのほとんどが金に喘いでいて、そこが中心になっている。そしてまあ、最終的に、それは目標ではなくてそのための道具であって、あくまで大事なのは愛だよねみたいな話をしている……のだと思われる。(この点だけでもディズニー社が会社ほあの体質で何考えて作ったんだろなと思わんでもないのだけども。クリエイターとは別なのだろうけど、なかなかの構造のような気はする。)
南部とはいえ比較的いわゆる人種と言われるものの混淆がうまくいっていて、音楽的な文化(ジャズ)の特徴もありみたいな背景からのチョイスでこれやってんだろうなあと思うといろいろ狙いが透けて見える。細かいこと言えば、ニューオリンズのしかも植民地時代の名残が強く残るとされるフレンチクオーターでもあるし。だからここは植民地時代のフランスだとかの影響、アメリカの影響、ブードゥーといった文化(ちなみにニューオリンズはまさにアメリカ国内でよ影響が強いという)などがごっちゃに混ざる場所でもあるわけである。主人公の親友にあたるいわゆる白人のお金持ちの家なんかも19世紀の富裕者に連なる系譜なのだろう。
ただまあ、土地が持つ影、貧しさはおはなしの光に飲まれてなんかいい感じにファンタジー化されている。歴史の波みたいなものはこの土地にもいろいろあって、まさに本作が描こうとしたのであろう貧困や格差みたいなものもあったはずだし、影を多分テーマの一つにもしてるのに、まあ、なあなあである。なかなかすごいことである(褒めてないわよ)。それでいてアメリカナイズな話を作るのに利用してるのですごいよなと思わんでもない。最終的に主人公もが得るのはアメリカの栄華の華やかさとそれが理想とする愛という。

最終的に何を言いたいか、目指してるかがよく分かる一作でしたというか。何を語って何を語らないかでもあるよなとも思う。

あと物語のメインの経過時間が1、2日の話ですごいスピードでみんな感情のアップダウン激しい。時間的な問題と言えるものでもないけど、愛というか、恋ではないのかそれは……。ホタルが星に恋してたのもあくまで熱心な片恋であって愛ではないよなというか。確かに愛の兆候は各キャラクターにそれぞれ見どころとしてあったけれど。まあ、そういうものなのだということなのだろう。
ワニが変装のふりをして人間の中に紛れてお祭り騒ぎを楽しんでたけど、人々を助けるため、この場から手っ取り早く離れてもらうために正体を明かして怪物の役を演じる場面とか好きだけど、ここも(いつものディズニーながら)ライトに終わるので深掘りはされない。

でも、借りを返さねばならない、ベットして破綻すればオワリのキレだけはいい世界にいる敵役なんかはあの舞台設定の中で面白い立ち位置にいたと思う。拝金主義、資本主義の影への皮肉だしね。そしてもちろんやはりそうした点も悪役として扱う以上の深堀はしないし、上記でも触れたように主人公たちは結局、アメリカ的繁栄でキラキラと生きるエンドなのだけど(たぶん、その繁栄はお金が中心になってはいけないよみたいな話ではあるんだろうけれど)。製作年代的に、かなりマクロに見ても、アメリカ経済がまさに窮地に陥って、世界にも影響が波及しと、まさにこの物語時代の直後の時代を彷彿とさせる渦中にあった上で制作されたことも繰り返すように意識の端に置いて観るものでもあると思う。その上で小首をかしげて、はあ、ディズニーだなあってしみじみ感慨に耽るものだと解した。どんだけフラットに観ようとしたところでいろいろ引っ掛かってくるのがディズニーなのだよなあ。
せいか

せいか