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パリでかくれんぼのmat9215のレビュー・感想・評価

パリでかくれんぼ(1995年製作の映画)
5.0
これは楽しいリヴェット作。訳ありげな三人の姐さんたちが、一人の男を介してゆるやかに交錯する。出鱈目な展開のようでいて、じつはかっちりと構成されている。
かっちり構成されているのはストーリーというよりも、ショットの一つ一つやその連鎖だろう。長尺にもかかわらず隅々まで工夫が凝らされていて眼福だ。三人の姐さんたちも、もちろん眼福。姐さんたちが艶やかなお召し物で身を包んでいるのに対して、男たちはだっさい出たちで引き立て役に徹している。
姐さんたちの中では、とくにナタリー・リシャールが素晴らしい。彼女の踊りはこの作品のキモになっている。そう、これはリヴェットのミュージカル映画だ。踊りが始まる直前の来るぞ来るぞという導入部から、踊りが始まってからの振り付けと一体化したカメラワークやカット割りがお見事。シャンタル・アケルマン『ゴールデン・エイティーズ」の居心地の悪さとは対極的だ。もちろん、アケルマンのミュージカルは居心地の悪さが味わい深いのだけど。
リヴェットは、人が人の前で何かを演じる場が好きなのだろう。『OUT1』や『彼女たちの舞台』では演劇だったし、最終作『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリーのサーカス(小さな山のまわりで)』ではサーカスだったりする。本作では舞台美術を制作する会社の社長が三人の姐さんたちの結節点となるし、その工房も物語の重要な場となる。また、本作では虚構としてのミュージカル場面だけでなく、ライブハウスで歌姫が実際に歌唱する場面も素晴らしい。エンゾ・エンゾもいいけれど、やっぱりアンナ・カリーナだ。ダミ声の迫力と、ダミ声がよく似合うご面相の迫力。
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