富樫鉄火

むかしの歌の富樫鉄火のレビュー・感想・評価

むかしの歌(1939年製作の映画)
5.0
#92(+#93) 石田民三没後50年@フィルセン
何度目かわからないほど観ているのだが、この映画も音声がヨレヨレで、いままでモヤモヤしながら観ていた。
そうしたところ、今回は英語字幕付きだったので、いろいろはっきりして、ありがたかった。
気丈な商家のお嬢様・21歳の花井蘭子と、彼女に憧れる零落士族の娘で18歳の山根寿子。
もうこれだけで身も震えんばかりの設定で、何度観てもたまらない。
初めて観たときは、あの有名なラスト・カットが永遠につづくんじゃないかと思って心臓が止まりそうになったのを覚えているが、さすがにこう何回も観ると慣れてきて、意外と蘭子さんの顔を影に隠して、チラチラ見せていることがわかる。
音楽演出は助監督の市川崑だそうで、どおりでクラシック満載、特に高堂国典がすっ飛んで帰るところにデュカス《魔法使いの弟子》を流すなど、うまいなあと思った。
中原早苗の父(藤尾)は、あまりに好感度抜群のボンボンで、まさに助演男優賞もの。
『花ちりぬ』同様、明治維新における薩長大暴れの陰で、少女たちがこんな目にあったんだぞとの、民三の芸妓愛があふれていて、日本映画史に残る乙女映画の傑作のひとつだと思う。
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#93『あさぎり軍歌』★3.5
なぜかここFilmarksにないので、このページにつづけて書きます。
初鑑賞、『花ちりぬ』の江戸版だった。
薩長迫る江戸で、旧旗本の息子3兄弟の、それぞれの生き方を描く。
明らかに民三テイストを出したくて仕方ないのだが、戦時中の国策映画なので、思うようにできず、中途半端に終わっている感じが強い。
そもそも、主人公を男3兄弟にしたのが(せざるをえなかった)、民三にとってかわいそう。
(この3兄弟、顔つきメイクも髪型もそっくりで、あまりに似すぎており、時々、観ていて混乱した)、
花井蘭子さんが眉を落とした人妻役で、出番も中途半端(いかにも、無理やり出番を作ったような感じ)。
それでもクライマックスは『花ちりぬ』と同じ屋根からの戦闘光景で、ああ、民三さんは、ほんとうに薩長がお嫌いだったのねとわかり、うれしくなった。
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