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ペルシャ猫を誰も知らないのCisaraghiのレビュー・感想・評価

ペルシャ猫を誰も知らない(2009年製作の映画)
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イランのクルド人監督バフマン・ゴバディが撮ったテヘラン。キアロスタミ映画などと違って、舞台が大都市テヘランだからなのか、実在のミュージシャンたちを起用して、違法とされるロックのアンダーグラウンドな音楽シーンを描いているからなのか、現代的というか同時代的。

なぜイランには違法な音楽ジャンルが存在するのか、それはどこで線引きされているのかよくわからないが、とにかく2009年時点のイランでは、ロックバンドがライブをやると逮捕されてブタ箱にぶちこまれたらしい。映画には、フュージョンジャズ、ヘビメタ系、ポストパンク、ブルース、フォーク、インド音楽っぽい伝統音楽や舞踏との融合系、ペルシャ語ラップ、顔を見せないミステリアスな女性シンガー等、様々なミュージシャンが登場する。音楽の自由はないが髪型の自由はあるのか、みんななかなか個性的なヘアスタイルをしている。男性が必ず髭を生やしている訳でもない。女性はヒジャブ必須。

ちょっとアイドルっぽくてカワイイじゃん!と思って見ていたイエロードッグスというポストパンクロックバンド。彼等の部屋の壁にはビートルズのポスターが貼ってある。映画の中ではメンバーの一部が主人公たちの演奏仲間になるのだが、ショッキングなことに、このバンドのメンバー2人(兄弟で、うち1人は、映画撮影時は同じく映画に登場するフリーキーズのドラマーだった)は、音楽の自由を求めて渡った先のニューヨークで、2013年、同胞であるフリーキーズの元メンバー(映画撮影時にはまだ加入していなかった)に殺されてしまったのである。イランでは、彼等の悲劇は大きな話題となり、葬儀には何千人もの人々が参列したという。

この映画の撮影自体も違法だったため、主人公の2人は映画の撮影後英国に逃れ、監督のバフマン・ゴバディも亡命し、以来どちらもイランには帰れていないらしい。

無許可のゲリラ撮影ならではの、音楽のリズムに合わせて次々と映し出される、スナップショット的に捉えられたテヘランの雑多な表情が貴重。明滅映像には少し気分が悪くなりそうだったが。

ナデル役のハメド・ベーダードさん、テンション高くてやたら調子のいい口から出まかせ男っぷりは『いつだってやめられる』のエドアルド・レオみたい。どこの国でもこの手の俳優さんは需要と人気があるようだ。
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