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ペルシャ猫を誰も知らないのakrutmのレビュー・感想・評価

ペルシャ猫を誰も知らない(2009年製作の映画)
4.1
バンドメンバーを探してテヘランでコンサートを行ったあとにイラン国外へ脱出しようとするミュージシャンのカップルを描いた、バフマン・ゴバディ監督の音楽ドラマ映画。

まずは、警察に逮捕される可能性がありながらも、音楽活動を続けるイランのミュージシャンたちの情熱が心に残る。だって、練習で演奏していたら警察に通報されて逮捕されるなんて、欧米や日本では全く考えられない異常な世界である。それにも関わらず、いろいろと工夫しながら音楽活動を続けるのは凄いと思うし、近所のガキが暇つぶしに警察に通報するというような逸話を笑いながら話している姿には精神的な強さも感じられる。

しかも本映画がこれだけ心に残るのは、主人公のカップルをはじめ、本作に出てくるミュージシャンがすべて本物であり、そこでの会話の内容も現実に起こっていることだからであろう。まさにドキュメンタリーを見ているようなのである。(俳優が演じているのは、いろいろと世話を焼いてくれるブローカーの男性と、偽造パスポートやビザを商売にしている長老くらいだろう。)また、ミュージシャンたちのリアルな演奏をかぶせてテヘランの人々の日常を映す映像は、彼らの MV のようでもある。ロックやラップなどの西洋音楽とイランの若者を結びつける映画は珍しいので、音楽映画が好きならば見るべき作品だろう。でも、普通の音楽映画とは異なり、結末はあまりにも悲しい。

映画の冒頭にあるスタジオでのシーンでこの映画についてメタ的に言及しているが、実際にバフマン・ゴバディ監督は主人公カップルであるアシュカン、ネガルとスタジオを知り合ったのが、本映画を撮ろうと思ったきっかけである。また撮影許可を得ずに小型カメラで撮影したために、臨場感あふれる(POVのような)映像に仕上がっていて、それもドキュメンタリー感に拍車をかけている。主人公の二人は、本作の撮影が終了した4時間後に実際にイランを離れているし、バフマン・ゴバディ監督も本作後に国外に亡命している。

なお、オウムにモニカ・ベルッチにちなんでベルッチという名前をつけているというエピソードが出てくるが、バフマン・ゴバディ監督の次作となる『サイの季節』ではモニカ・ベルッチが主演している。
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