砂

やさしい嘘の砂のレビュー・感想・評価

やさしい嘘(2003年製作の映画)
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ジョージア映画(ジョージアが舞台の作品を含む)をいくつか見た中でトビリシは初めて。筋書きはシンプルであるものの、抑制が効きながらも繊細な演出のドラマ。邦題がいい意味で合っている。

わりとありがちなプロット(質は高い)であるが、舞台がジョージアで主役三人がそれぞれ異なる世代を生きてきたことが巧みに表現される。一番わかりやすい箇所はスターリンについて意見が見事に分かれるシーン。私自身、あまりに複雑なジョージア近代史に明るいわけではないが、実際的な苦境が背景にあって登場人物の行動原理として還元されている点がすごくリアルだ。世代ごとの考えの違いがストーリーにも反映される。全体的に落ち着いたトーンであるが、誕生日シーンの歌などジョージアらしさも溢れてしらじらしい重苦しさはない。ジョージアの街並みは素敵だと思った。

あまり説明的なシーンはなく、未使用シーン集などを見た感じ意図的に説明的なセリフはカットしたようだが、それでも多発する停電始め、なんとなく背景を観客にそれとなく理解させる演出がうまいと思った。特に本棚の古書、の対比がラスト周辺できらびやかな雑誌群として提示されるあたりはジョージアの苦境と希望を描いているようだった。ただしそこはユートピアではない、という現実的な問題も核に組み込まれてはいるが、それでも嘘も方便、未来を切り開く願いのような余韻が残った。良作である。

ただこういう作品を日本向けに配給しようとすれば仕方ないのはわかるが、安っぽい感動作っぽいパッケージングは残念だ。これは本当に悪しき伝統だと思う。まるでゆるふわな感動作みたいな予告は作品の魅力に過剰なまでに作為的な加工を加えるのでやめてほしい。
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