終戦直後の日本を舞台に戦争孤児を取り巻く厳しい現実を描いてて、昨日観た「恋をするより得をしろ」の春原政久監督が同作とは天と地ほど異なるシリアスな題材を扱っててちょっと戸惑ったけど、堂々たる内容だった。幼き存在が大人の都合に振り回されるのは、ついこないだ観た「子供たちは見ている」に通じるものがあり、貧しいながらも前に進もうとする子どもたちが戦後の貧しさや原爆病に阻まれる姿に心が痛んだ。浅丘ルリ子が女学生として一瞬だけ登場するのが新鮮だったね。

父親が戦犯として処刑されたことで世間から冷たい目で見られてる戦争孤児の勝と妹の清子が、おじおば夫婦に引き取られて暮らしているところに祖父がしゃしゃり出てきて、孫を引き取ると強く主張してくる。結局、勝だけが祖父に引き取られることになるんだけど、祖父は孫が可愛いのではなく、戦争孤児に対して支給される恩給が目当てというのが胸糞悪くて見ちゃおれない。この祖父を演じた加藤嘉は「武士道残酷物語」でも胸糞悪い助平ジジイを演じてて、こういう嫌な役がほんとに上手い。もちろん「砂の器」のような悲しい役でも抜群の演技力を発揮してたけど。

祖父との鹿児島での生活に嫌気がさした勝が家出し、大阪、青森とめぐっていくロードムービーみたいな展開で、勝の旧友であるピカハゲと黄金虫を中心とした子どもたちだけの悲しきコミュニティーへと収斂していくのが切ない。それでもピカハゲたちが少年院には戻らずカタギになろうと明るい未来を描き、この地で働いて自活しようとするちょうどその時にピカハゲの原爆病が発症するのが、それまで「ピカのせいでハゲになった」とからかいのネタにされていたこととの強烈な対比になってた。ラストは木下恵介の「日本の悲劇」の子どもバージョンみたいで、ひたすら神に許しを請うことしかできないキリスト教信者の伯父の姿が虚しい余韻を残す。夏目漱石「こころ」の映画の看板が出てくるシーンがあったけど、同じ1955年公開の市川崑監督作だろうか（新珠三千代が良かった記憶がある）。

戦犯で絞首刑にされた父をもつ子どもが「お前の父ちゃん首くくり〜」といじめられていて、戦犯にも家族がいたはずなのに今まで考えたことがなかった

いろんなところを移動していて、どこにいるのかよくわからないことが多かった

汽車が人を轢いたときの合図がある…？

どういう話なのかわからないまま見てたけど、ラストシーンでようやく腑に落ちる。これは戦災孤児の残酷物語。
兄妹が受け取るはずの恩給をへそ曲がりな祖父が独占してしまう。このひとはいいひとなんじゃないかという観客の期待を背負う宇野重吉は弱腰過ぎてただのストレッサーに成り下がっている。
家出→放浪が新聞記事になる→死んだ父親の部下だったものが引き取ってくれるも、そこにもうまく馴染めない。戦災孤児たちと仲良くなるようになり、みんなで北海道を目指すことに。
原作はないみたいなんだけど、主人公兄妹の受難が絶妙なさじ加減。いまでいう育児放棄・ネグレクトの描き方もリアルなことこの上なかった。
新聞や雑誌に掲載される戦災孤児の身の上話を集約して作ったような話で、なにかしらベースとなったものもありそうなんだけど、残ってるデータが少ない。（同時上映作品はないみたい）
どうやって広げた風呂敷をたたむのかと思って迎えたラストがあまりに強烈。
日本を縦断する大規模ロケも社会派なこの映画に話題を添えている。
1955年といえば安保闘争の真っ最中。そして映画人には活動家も多くいる。そうなるとベトナム戦争反対のメッセージも込められていると思っても間違いじゃない。なのでそのあたりも含めて鑑賞するべき作品なのかもしれない。
加藤嘉の悪役は強烈だね。
面白かった。