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俺たちの血が許さない(1964年製作の映画)
4.1
 竹やぶに囲まれた閑静な邸宅は夜露に濡れていた。大きな雨音の消えない部屋の中で男は寝間着姿で散弾銃を磨いている。そこに短刀を差した男が現れ、男は無残にも刺されて命を落とす。こうして浅利組組長の浅利源治(緑川宏)は何者かの手により殺害された。第一発見者の母親(細川ちか子)に対し、夫は「息子たちを頼む」と言い残して逝った。それから18年、兄と弟の2人の兄弟は立派な大人に成長した。兄の良太(小林旭)は一度はヤクザの道に入ったものの、今はキャバレーの支配人をする親孝行な青年であった。一方の弟の慎次(高橋英樹)はアパレル関係で働く明るい青年で、半人前でいつも仕事をサボっていた。彼が仕事を休む度に、会社の同僚の片貝ミエ(長谷百合)はいつも尻拭いをさせられていた。夏祭りの夜、浅利家を1人の男が訪れる。飛田丑五郎(井上昭文)と名乗るその男は、18年前に兄弟の父・源治を刺し殺したことを正直に告白し、土下座し詫びる。弟は父の仇に怒り心頭だが、暴力に訴えようとする弟を兄は冷静に静止した。

 血気盛んで好奇心が人一倍旺盛な弟と、いつも冷静で母親に苦労もかけたことがない兄。大黒柱を失った浅利組は解散し、東京へと引っ越し狭いながらも小さな家を立てる。夫の最期の言葉に従うように、女手一つでどこまでも質素に2人を育て上げた母親には2人をヤクザにだけはするまいという意地のような思いがあった。兄は大蔵省へ務めるという夢を、父親の仕事が理由で絶たれた。同期で彼ほど優秀でない人間たちが官僚として課長に昇進する中で、ヤクザの息のかかるキャバレーの支配人という裏家業をいったいどのような思いで過ごしてきただろうか?そんな苦労人の兄も母親同様に、粗暴な弟がヤクザになるのを頑なに反対するが、暴力沙汰で仕事をクビになった弟は、父親の背中に昔よりも深い憧れを抱いている。いつものようにスクリーン・プロセスで撮られた車中の2人の背後では津波が荒れ狂い、渦を巻く。メタファーとしての不穏な予兆を現実化するのは意外にも粗暴な弟ではなく、いつも冷静沈着な兄の方だった。凛とした清純派の松原智恵子が彼女らしくない演技を披露する中、初めての満ち足りた瞬間の次の日の平和である朝に車はセンターラインを乱すように走りながら、ゆっくりと横道へと逸れて行く。

 物語はここでも映画の設計図であっても見取り図ではない。天才・鈴木清順の色彩感覚こそは真に独特で、モダンな筆致に彩られた1コマ1コマが何度観てもまったく飽きさせない。クライマックスの草むらでの点滅する銃声。白い衣装は真っ赤な血に染まり、兄は単に復讐を遂行するだけでなく、滅びの美学の一方で弟を全力で食い止めんとする。堅気の弟と仁侠を地で行く兄との対比は、この後『刺青一代』へと見事に踏襲されるのだ。
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