滝和也

無謀な瞬間の滝和也のレビュー・感想・評価

無謀な瞬間(1949年製作の映画)
3.5
若気の至り…
母の子を思う想い
幸せな家族に迫る影

心優しき脅迫者

初マックスオフュルスは
ノワールの佳作から…  

「無謀な瞬間」

ロス郊外に住む普通の主婦が娘の彼氏がワルだった為に恐ろしい思いをする一風変わったノワール作品。オフュルスは女性目線の作品が得意と言うレビューを読み、家に眠ってましたノワール全集にあったこの作品を。

ルシアは娘のビーがワルのダービーと付き合う事に反対していた。ダービーに娘と別れてくれる様に話すルシア。その夜ビーはダービーと家のボートハウスで合うが、本性が分かり口論になり、彼を殴打し逃げ出す。ふらついた彼はデッキから落ち下には運悪く錨が…。翌朝死体を見つけたルシアは全てを察し、死体を隠す。そしてドネリーと名乗る男が訪ねてくる…その男は脅迫者だった。

普通の主婦が無軌道な娘のせいで闇に取り込まれるお話であり、ノワールと言えば刑事やギャング、犯罪者がメインなのだが、この点から珍しい作品なのかなと。

また主婦であるルシアの視点がメインとなっており、その境遇がかなりリアルに語られており、優しき脅迫者ドネリーがある意味同情してしまうのもわかります。旦那は海外出張、言うことを聞かない馬鹿娘、自由過ぎる息子によく分かってない義父と…見た目メイドさんのいる裕福そうな家庭だが、主婦である彼女に自由になる金もなく、時間もないと言う…妙なリアルさがありますね。

一年で最高のクリスマス休暇にも帰れぬ旦那を想いながらも、一人で解決しようと必死になる彼女に惚れたのか、同情したのか分からないが、脅迫者ドネリーの気持ちが変わっていくのが、このストーリーのポイントです。思わぬ方向に話が走ってきますからね。

派手さはないのですが、脅迫の恐怖に耐えながら、家族の幸せを守ろうとするルシアにジョーン・ベネット。お綺麗な方ですが…ざぁーます眼鏡が…(笑) 昔の主婦眼鏡はあんな感じなんでしょうか‥。また彼女の心を映し出すようにカメラは執拗に移動しながら彼女を写してきます。この辺もオフュルス流なんですかね。

また優しき脅迫者ドネリーにジェームズ・メイスン。この方キャロル・リードの邪魔者を消せが凄く良くて…どっかで見た事あるなと思ったらその方。こちらも良い役。彼女に惹かれていく理由はやや弱い筋立てなんですが、その演技は巧みで格好良くて良かったですね。

ラストは無情感と罪悪感、そして幸福感と入り混じった感じがまたノワールらしくて良いかなと思います。クリスマスの奇跡にも見えますし…。地味ながら丁寧な作りが好感が持てる視点を変えたノワールの佳作です。お暇なときにでも…。
滝和也

滝和也