Omizu

つぐみのOmizuのレビュー・感想・評価

つぐみ(1990年製作の映画)
4.4
【1990年キネマ旬報日本映画ベストテン 第9位】
吉本ばななの同名小説を『東京兄妹』市川準が映画化した作品。タイトルロールのつぐみを演じた牧瀬里穂が評判になり、キネ旬や毎日、ブルーリボンなど新人賞をほぼ独占した。

素晴らしい。市川準監督の映画すごく好き。繊細で暖かく叙情的。原作のドラマになりそうな部分を直接描かず、引きの画面や省略して進めていくという上品なつくりが好きだった。

牧瀬里穂演じるつぐみがとにかく魅力的。体が弱く長くは生きられないと知り、開き直ったかのように乱暴な言葉遣いで悪態をつく。でも外見は可愛らしく頭も賢い。

でもそんなつぐみも真田広之演じる男が来て恋におちるのだが、完全に恋する乙女になる。雨の中庭でうずくまるつぐみ。あのシーンがすごい。表情に全て詰まっている。あれで一気に引き込まれた。

家族と恋人が危機に見舞われたとき、彼女は全精力をかけて穴を掘った。とても深い穴。弱い体を顧みずに穴を掘り続けるつぐみ。彼女の覚悟と愛を示す穴だった。

新人賞総ナメも納得のすごい存在感の牧瀬里穂がよすぎ。つぐみという人の深さを見事に演じ、市川準監督は素晴らしい演出で彼女を描いた。

終わり方も素晴らしく、エンディングの曲もいい。

市川準監督、吉本ばななに共通する繊細な暖かさ、おかしな激しさを存分に表現した作品。この夏休みをずっとみていたかった。青春映画という枠ではくくれない、とてつもなく深いことを言っている。しかしそれを暖かさと詩情で包んだ市川準らしい傑作。
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