みかんぼうや

地の群れのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

地の群れ(1970年製作の映画)
3.9
【超衝撃。部落、原爆症、性被害差別が生む負のスパイラル。その悲痛さと憤りを余すところなく伝える残酷な画作りとメタファー。この時代の邦画とパワーと恐ろしさよ!】

衝撃。私の稚拙な文章力では、この映画の凄みと観終えた後の動揺をうまく表現できない。“常軌を逸した”表現とは、本作のような作品に使われるべきなのだろうか。いや、それはこの時代と大きく価値観や社会が変わった現代に観ているからこそそう思うわけで、この映画で描かれる惨状は公開当時はより現実的な社会問題であったのだろうか。

しかし、これだけは言える。今この現代にこの作品を公開するならば、人権団体や動物愛護団体(後に理由は書きますが)など、さまざまな組織から公開差し止めが求められることを優に想像できるほど物議を醸し出す破壊力を持った作品だ。

戦後の長崎で起きる、部落、原爆被害者、性暴行被害者への偏見と差別。自分たちが選んだ道ではなく、戦争や性的暴行の被害者となってしまったことで、さらに世間から蔑まされ虐げられる。被害を受けた娘に「世間に対して恥ずかしい!」と罵る身内、部落出身と差別を受ける者がピカドン部落と呼ばれる原爆被害者が集まる地域の人々を差別する、怒りが怒りを生む、負のスパイラルが全編を通して表現される。

その表現手法もオープニングから異質、いや異常である。タイトルバックで流れる映像は、カゴの中に大量に入れられたネズミと1羽のニワトリ。そこからネズミ同士が殺し合いをはじめ、しまいには生き残ったネズミたちが自分たちより何倍も大きなニワトリを食いつくす。

これは、“ある空間に1人の異質な人間が入り込んだ時に、集団がその人間を殺してでも排除しようとする”という人間の醜さを表すメタファーか?

また作中に再度登場する、カゴの中の大量のネズミとニワトリ。今度はカゴごと焼き払われ、黒焦げになった死骸が大量に転がる。あまりにリアリティのある死骸はCGが使われる前の時代に撮られた、本当に動物たちを火あぶりにした撮影だそうだ。それは作中にたびたび映し出される長崎の原爆で真っ黒に焼け焦げた人間の死体を脳内で想起させる。

さらに過去の罪悪に囚われ続けもがく主人公など、複雑な人物模様も含め、語るべき内容があまりにも多すぎて、本当にレビューにまとめることができない。この壮絶な物語の内容に全く引けをとらず、むしろその惨状を的確に描く強烈な画力は必見の価値あり。

有名作品だと思っていたら、レビュー数もかなり少ないマイナー作品でしたが、この時代の邦画のパワー、いや恐ろしさを体感できる作品で、動物虐待が生理的に受けられない方以外は(私はペットを4匹飼うほど動物好きですが、なぜか古い映画については割り切っている人なので)、ぜひアマプラ無料配信でご覧いただいて、色々な方のレビューを読んでみたいと思わされる映画でした。
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