SANKOU

レインマンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

レインマン(1988年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

高級車を扱うディーラーのチャーリーは自信家で口達者で、仕事仲間のレニーや恋人でもあるスザンナに接する態度もかなり傲慢だ。
おそらく何でも自分の思いどおりに人や物を動かせないと気が済まない性分なのだろう。
しかし実は彼の事業は廃業寸前まで追い込まれていた。
彼は仕事をすべてレニーに任せきりにし、スザンナと共にバカンスに出掛けようとするが、父の突然の訃報の報せを受け取る。
チャーリーは父親とは喧嘩別れをし、絶縁状態にあった。
それでも彼は何の感情もわかないまま父の葬儀に参列する。
彼が父の遺産を目当てにしていることは明らかだったが、弁護士が読み上げた遺言で彼に残されたものは、喧嘩別れするきっかけになったビュイックと品評会で賞を受賞したバラの木だけだった。
それ以外の300万ドル相当の遺産は、遺言状に書かれた受取人のために信託銀行に預けられることになっていた。
受取人の情報は開示出来ないと弁護士はチャーリーに告げる。
遺言の内容に納得出来ないチャーリーは信託銀行に行き、受取人が誰なのかを調べ上げ、ある病院にたどり着く。
そこで彼はずっと知らされていなかった兄の存在を知る。
遺産の相続人である兄のレイモンドは重度の自閉症で、通常の社会生活は出来ない状態だった。
しかも彼には遺産の価値も分からない。
チャーリーは遺産の半分の150万ドルを要求するために、強引にレイモンドを病院から連れ出してしまうのだが…。
正反対に見えるチャーリーとレイモンドだが、お互いにマイペースで相手の都合などお構いなしという点では似た者同士だともいえる。
そしてお互いの主張を譲れない二人がトラブルを起こすのは当然だ。
しかしチャーリーは自分の意志で感情をコントロール出来るし、相手の都合に合わせることが出来る。
彼はこれまでずっと傲慢で身勝手な生き方を改めようとはしなかった。
これまで献身的に彼を支えてきたスザンナだが、彼の嘘をついてまでレイモンドを連れ出した卑劣さを許せず、ついに愛想を尽かして彼のもとを離れてしまう。
事業を立て直すために一刻も早くロスに戻りたいチャーリーだが、レイモンドが事故を恐れ飛行機も高速道路も使えず、また雨の日は頑なに部屋を出ようとしないため、いつまで経ってもロスに近づくことが出来ずに焦る。
環境の変化にうまく適応出来ないレイモンドだが、記憶力と計算能力はずば抜けている。
しかしそれを日常生活で応用させることが出来ない。
自分のペースを崩され苛立ちを隠せないチャーリーだが、ふとしたことがきっかけでレイモンドに親近感を抱くようになる。
レイモンドが思わず口にしたレインマンという言葉は、チャーリーの幼い日の記憶に残っていた。
「怖いことがあると、レインマンが来て歌を歌ってくれた」
そのレインマンとはレイモンドのことだったのだ。
やがてチャーリーは振り回されながらも少しずつレイモンドの行動を受け入れるようになる。
彼の記憶力と計算能力を当てにし、ラスベガスで大儲けをしようと悪巧みをする場面もあるが、チャーリーはレイモンドを実の兄として慕うようになる。
チャーリーがレイモンドにダンスを教える場面はとても印象的だ。
また戻ってきたスザンナがレイモンドにキスを教える場面もとてもロマンチックだ。
いつしかチャーリーは遺産の相続よりも、ただ一人の身内としてレイモンドと一緒に暮らすことを望むようになる。
しかしレイモンドはふとしたことでパニックを起こし、病院以外の環境に馴染むことが出来ない。
チャーリーは何とかしてレイモンドと共に暮らす道を探そうとする。
彼は自分とレイモンドは心を通わすことが出来たと医師と弁護士に主張する。
その言葉を体現するようにレイモンドはチャーリーと共に暮らすことを希望するが、同時に病院に戻ることも希望する。
彼にはそれが相反するものだという認識がない。
そして彼は再び病院に戻ることになるのだが、最後に気になるのが果たして二人は本当に心を通わせていたのかどうかだ。
病院でレイモンドを担当していた介護士は、「彼は人に関心がない。俺が明日いなくなっても気がつかないだろう」と話していた。
確かにレイモンドはほとんど感情を表に出さない。
しかし彼はまったくチャーリーと意志疎通が出来ないわけではなく、彼もまた状況の変化に必死で対応しようとしていた。
表には現れないだけで、実はレイモンドはチャーリーに対してとても深い感情を抱いていたのかもしれない。
最後にチャーリーは感傷的な面持ちで列車に乗り込むレイモンドを見送る。
レイモンドは席に着くと、すかさずチャーリーからもらった携帯テレビを観る。
その姿はもはやチャーリーのことなど忘れているようにも見えるが、マイペースなだけでいつまでもチャーリーのことを忘れることなどないようにも思えた。
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