うめ

ピアニストのうめのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.7
 ミヒャエル・ハネケ監督作品。私にとっては『白いリボン』『愛、アムール』に続いて3作目のミヒャエル・ハネケ作品。今作は第54回カンヌ国際映画祭でグランプリ、女優賞、男優賞を獲得している。

 ウィーン市立音楽院で働く39歳のエリカが主人公。朝からピアノの個人レッスンをし続け、そのまま家に帰る。同居している母親があらゆることに干渉してくることに困りつつも突き放せない。服装も髪型も地味。ただ毎日、ピアノを教え続ける。そんな生活をしている中、若い学生ワルターがエリカに求愛をしてくる。拒んでも、エリカの働く音楽院に編入してまで、エリカを求めるワルター。エリカもワルターが気にはなるが、エリカには倒錯した性的趣味があったために、事態はどんどんワルターの思わぬ方向へと進んでいく…。淡々と語られているが、内容は非常に濃く深いストーリーとなっている。

 エリカの行為や望みは確かに一般の人とは異なっているし、ワルターが驚き嫌悪感を抱いてしまうのも無理はないかもしれない。だが、変態だとか頭がおかしいといってエリカを簡単に一蹴することができるだろうか。エリカの求めようとしたものは結局「愛」だ。それはワルターや一般の人々と同じだ。たまたま父親が精神疾患で亡くなり、母親に未だに束縛されている環境で育ち、「愛」までの過程が違うだけ。そう考えると、ワルターでも他の人々でも皆、「愛」の求め方は十人十色。だからそれぞれの方法で求め、求められ、互いにぼろぼろに傷ついて、それでもそばにいられたとき「愛」がちらっとでも見えるのではないだろうか。

 このストーリーに深みを与えるエリカ役のイザベル・ユペールとワルター役のブノワ・マジメルの演技は見事だ。前半、感情をほとんど表情に出さないエリカが、後半に大きく動揺していく様子はエリカの内面をよく表している。エリカと同様に、エリカに巻き込まれ、少しずつ平静を保てなくなっていくワルターの変化も見事に表現されている。この二人の演技がなければ、表面の異常な描写だけで終わっていただろう。「狂気」と「正気」という紙一重の綱渡りをする二人に注目して頂きたい。

 二人の演技を引き立たせるカメラワークと全体に流れるクラシック音楽にも注目だ。カメラは必要以上に、エリカやワルターの無言の表情を映す。滲み出る空気や雰囲気、感情を捉えようとしているようだ。また美しいピアノの音色が状況によって、異なったように聞こえるのも興味深い。穏やかだったり官能的だったり…淡々としている分、ピアノの音色がよく耳に残るだろう。

 内容や描写が変わっているだけに、好き嫌いを選びそうな作品だが、観て損はない作品。私は好きな作品でした。やっぱりミヒャエル・ハネケ、いいですね。
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