m

ピアニストのmのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
4.5
エリカの人生を間違った人生だとは言いたくない。懸命に生きて、真剣に向き合い、争い、切望した。頭おかしいで済ませたくない、そんなことを思った作品。

有名な作品で観たかったのだけど、ようやく鑑賞できた。ハネケ憎らしいなぁと思いながら美しい歪みのある世界に浸った。

まずはもうみんな大好きイザベル・ユペールさんの怪演ではないか。AVを観るエリカ(イザベル・ユペールさん)の嬉々とした表情は印象的だが、それが自身の身に降り掛かったとき、所謂レイプされたときの血の気の引いた老婆のような顔面に鳥肌が立った。レイプシーンはホントに事が行われているようでゾッとした。そしてそれを見事演じてしまえるユペールに感嘆した。

今作は毒親というより共依存のように思えた。抑圧があるにしろ、エリカも母親にべったりで母親に愛されたいと願っている。喧嘩をしても謝り、母の身を案じている。
エリカは何かを探しているように思えた。ピアノ漬けの自身の世界から脱したいその一心でいろんなことを試していたのではないかと思う。

エリカはマゾヒストでは無いのかもしれない。実際ないのだと思う。SMプレイを自身の虚無な人生に必要だと勘違いしてしまった。けど、だからといって刃物での自慰行為を見逃していいわけじゃないと思う。勘違いでそんなことするのか?
というより、本筋はエリカがマゾヒストだということの真偽をはかる作品なのか。

なにかを求めていた。抑圧や共依存、毒親、仕事一筋(ピアノ)、プライド、そういう普遍的なものが様々に折り重なった状態からもがいていた。そんなエリカの姿は人間臭く、気持ち悪いと切り捨てられないなにかがあった。

ラストが秀逸だった。派手では無い(殺人を起こしたり死んだり)が彼女なりの悲しみが表現されている。それでも「あぁ、彼女の人生はなにも変わらず、明日も母と過ごし、ピアノを教えるんだろうなぁ」という未来を予感させる。ハネケ監督はやはり心理を描くのが上手い。素晴らしいと思う。

なにかを求め、行動するのは勇気がいる。
拒絶されることもある。それでもその行動は無駄じゃない。

ストーリー : ★★★★★
映像 : ★★★★☆
設定 : ★★★★★
キャスト: ★★★★★(イザベル・ユペールさんに)
メッセージ性 : ★★☆☆☆
感情移入・共感 : ☆☆☆☆☆
m

m