Automne

ピアニストのAutomneのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
4.0
恐ろしく痛々しい。毒親からの抑圧がコンプレックスとなって歪んだ性癖となる。単純なSMの話にとどまらず、シューベルトの狂気の前の自己喪失ともかかっていて、ラストでピアノが弾けなかったのも女と男の正気/狂気のずれから極端になることができずに(子どものように曖昧な感情でしかなかったため)情感が出せないというピアニストとしての"無理"が勝ったからだろう。
SとMは表裏一体。性的倒錯はDVとかと良く似ていて、そういう人間と関わったらその人もそれ以降の人生で性的倒錯しやすくなるという悪夢の螺旋を生んでいるような気がする。何か行為をやらせる(命令)は見方によってはSにもMにもなって、何かをやって欲しいですお願いします(懇願)にもなりうる。その点で2人の関係性が入れ替わったりする面白味(これを面白味と呼んで良いのか分からない)があった。
自らの子宮を傷つけるというのは、自らの母性に対して暴力を加えることで快感を得ているということであって、彼女にとっては母親への暴力や反逆がそのまま社会的な快感となりうるということの裏返しのように思った。昔ひとと話した時に、痛みを受け続けた人間は痛みを快感と思うように脳が変化すると言っていて、それを毒親にあてはめるのであれば、「自分の愛している人から否定されたい/否定されることが快感になる」というとんでもなくぶっこわれた人間というものにたどり着く。まだせめてパートナーの彼がまともで良かった。
個人的には人生で出会ってきたぶっ壊れた人たちのことを不覚にもトラウマを想い出してしまい、そのやばさの感じとちょっと似ていたので胸の奥がきゅうってなった。ともあれさまざまにいろんなことを考えさせるという意味ではすごい作品なのかもしれない。ハネケ、怖いよ。
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