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ピアニストの346のレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
4.5
「観た!ピアニスト観た!」

もう、そんな感じ。公開当時、映画館に足を運んでいたら、出会う友人全員にこのテンションで語りかけただろうに、おしいことしたなと思う。

白いリボンを観てハケネは自分には合わないかもしれないと思っていたけど、この作品を先に観ておけばよかった。あの瞬間に心が震えた。イザベル・ユペールあの顔。どの顔かなんて、観た人はきっと分かるあの顔。観てるこちらが不安になるぐらいに全ての感情が暴れだして作り上げたあの表情。もうあれだけでこの映画を観る価値があると思う。

もちろん、そこに至るまでの描き方もすごく丁寧で、過干渉の母のもとで暮らす日々と、倒錯した性癖との落差にちょっと共感した。いや、共感したと書いたらあんなことをしてるように思われても困るけど笑。すごく気持ちはわかる。
「こうしなさい。ああしなさい」と親の監視の中で育てされた子供は、親がおぞましく考えていること、絶対に怒り狂うであろうことを、親にバレないようにすることで心のバランスを保とうとするのだから。

でもそれがとても悲しいのが、その倒錯した性癖が本当の自分ではないこと。
倒錯した性癖はあくまで反発であって、自分らしさを探す簡単な方法として、親が望まない自分をつくりあげただけなので、本当に自分を愛してくれる人が現れたときに、どう向き合っていいのか分からなくなるのだ。それは彼が愛してくれる自分がどこにいるのか分からないから。それが怖いのだ。その気持ちが痛いほど分かる。

そんな彼女が愛しくもあり、同族嫌悪もあって、映画を観ながらグルグルと渦巻く自分の感情に戸惑っていたのだけど、あの顔によってすべては終わる。もしかしたら自分も同じ顔をしていたかもしれない。
すごかった。ただ観る人は選ぶかもしれないけれど。

象徴的なシーンのすべてに扉が一緒に映っていることに意味があるんだと思うけど、評論家でもないのでそこまでは深く考えないことにしよう。
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