櫻イミト

ビッグ・トレイルの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ビッグ・トレイル(1930年製作の映画)
4.0
70㎜本命版(125分)と35㎜代替版(109分)を同時鑑賞。

無名の新人だったジョン・ウエインの主演デビュー作(当時23歳)。最初期の70㎜ワイド・スクリーン超大作だったが、上映可能映画館が極小数だったため興行的に大失敗し※ジョン・ウェインは9年後の「駅馬車」(1939)まで不遇の時代を過ごす。監督は後に「白熱」(1949)などギャング映画で名を馳せる名匠ラオール・ウォルシュ。「ビッグ・トレイル(大きな道)」とは、全長3500㎞に及ぶ西部開拓の道“オレゴン・ルート”を指し、実際に現地ロケされた。※本作は35㎜版が普及することになり、70㎜版は70年にわたり幻となっていた。

1800年代前半の西部開拓時代。東海岸のミズリー河湖畔には数百人の開拓団が出発しようとしていた。上流社会出身で親と死別した娘キャメロンは小さな弟と妹を連れ、またインディアンを友として育った西部の青年ブレック(ジョン・ウエイン)は親友の仇敵を探して一行に加わった。向かうは希望の土地オレゴン。大河の激流、絶壁、暴風、インディアンの襲撃、吹雪と厳しい道のりを一行は進んでいく。。。

70㎜本命版の映像が超絶に素晴らしかった。大量エキストラと細やかな美術で西部開拓団の日常と自然との闘いをリアルに再現し、ワイドスクリーンを計算に入れた壮大な映像が展開されていた。西部開拓映画をあまり観ていないのだが、例えば後の「赤い河」(1948)と比較しても、大量の牛が流されていく川越えや垂直絶壁で幌馬車を降ろしていく描写の迫力は、勝るとも劣らないと思う。

プロットは、究極の困難を乗り越える開拓者魂をベースに若い二人の恋模様と敵討ちのサスペンスを絡めたもので、後の西部劇で描かれる男同士の確執のドラマは薄め。また、旅の行程がじっくりと描かれローテンポな進行。ではあるが、とにかく映像が魅力的なのでウットリと観続けることができた。特にラストシーンは、そのロケーションもカメラワークに込められた意味も、史上屈指の出来映えではないだろうか。

そして23歳のジョン・ウエイン。ジェームス・ディーンを無骨にしたような精悍なイケメンで、スマートで均整の取れた193cmの体格は実に見映えが良い。本作の仕上がりも良く興行的成功も望めそうなところだが、不運だったのは公開の1930年が世界大恐慌真っ只中だったこと。どの映画館も75㎜ワイドスクリーンの新機軸に対応する余裕はなかったのだ。ならば、ウエインだけの責任ではないように思えるが、結果的に9年間も干されたのがハリウッドの怖さなのかもしれない。

35㎜版は、2か所ほどシーンの位置が違うだけで殆どのシナリオは同じだった。ただし、トリミングではなく、全て別カメラで別の位置から撮られていた。当然70㎜版がベスト・ポジションで撮られている。

本作の最大の魅力は映像であり美術もロケーションもワイドスクリーン用にしつらえてあった。両カメラの被写体深度も違っている。35㎜版のみの優れたカットが2か所あったが(垂直絶壁俯瞰とインディアン襲撃あおり)、本作の魅力を堪能するには70㎜版の鑑賞がマストである。初のソフト化が2008年発売の米版DVDなので未見の向きが多いと思われるが、今後多くの人に観られることで大きく再評価されていく一本だと思われる。

※ジョン・ウエインの芸名は本作の主役に抜擢したウォルシュ監督が考案。
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