多次元世界の住人

シンドラーのリストの多次元世界の住人のネタバレレビュー・内容・結末

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

歴史に残る名画にも関わらずなかなか見れてなかったので視聴。極限の状態に巻かれた時、その人間の裁量が問われることを知った。誰もが見てほしい感動作。

まず第一に人間の真価が問われた作品だと思った。人種間の差別、力を持つものの倫理。あなたの価値とは?人間の価値とは?そもそも価値とは?そんなことを揺さぶった。
またゲートとシンドラーの会話で「力とは」についての話があった。簡略化すると、殺せる状況で許すこと(自制心)だと思うが、初めはてっきりゲートをコントロールするための言い分かと思ったが、力を持つ者の責務と言うべきか、シンドラーがその力の考え方に沿った行動を取っていて意外にも本心なのではとも思った。

次に感じたのが他者論とユダヤ。他者から奪う状況下にある時、我々は何を思うのだろうか。
私は射殺の映像を見ていた時、常に心が苦しかった。それは心理学的にとか科学的にとかで分析されるものかもしれないが、ここで感じた心はそんな定量できるものではない気がした。
他者論とユダヤと言ったら、このナチスの虐殺を経験したユダヤ人哲学者レヴィナスだろう。私も深く勉強したわけではないが、他者の顔に無限の責任が生じるという彼の主張を想起しながら見入ってしまった。
ナチスの兵隊が射殺するときの心情、それを傍観するもの、被害者、シンドラー、そして鑑賞者である我々。他者に何を感じ取るのか、コミュニケーションに他者性が喪失した現代、ぜひ考えてみたい議題である。

次が企業のあり方と経営倫理である。シンドラーのすごいところはステークホルダーとカンパニーを上手く回し、最大の成果を出したことだ。通常正義だとかで戦えばそこに敵は生じる。そうではなくてそれぞれに利益が出る形で、会社を回し、その目標を達成したこと、会社のあるべき姿がそこに投影されているように感じた。
例えば女性だけがアウシュビッツに送還されてしまったシーン。流石にそんなに上手くいかないかと私もドキドキしていたが、持ち前のカリスマ性を発揮して全員を救うことを可能にしたのは驚かされた。ここでの交渉が心情に訴えるものではなく、あくまで正論を論理的に行い、話を円滑に進めたのは目を見張るべきだろう。
またこの恐れと愛の塩梅が素晴らしいと思った。私が学んだのは恐れを前に出しながらも、その芯に愛があること。決してそれを前に出してはいけない。感情に訴えかけたり、善悪を問うものは敵を作るから。この結果主義的でありながら冷徹に仕事をこなし、でも背後の目的は慈愛に満ちているのには素晴らしいと感動した。
堂々と、そしてその場に沿った流れを隠された目的を果たすために導く。力のある経営者の姿がそこにはあった。

最後にこの長時間の映画とリアリティと自然を感じた作品、それを作った製作陣の人々に敬意を。
この作品は確かに歴史に残すべきだと思った。撮影秘話をぜひ調べてみたい。

ナチスの歴史やユダヤの歴史も恥ずかしながら義務教育レベル。世界が反省すべき人類の事件なのに、詳しく学べていないことを悔やむ。
極限の状況に至った時、あなたはどう選択をするか。自己の生き方をも見つめ直す作品。