TaiRa

シンドラーのリストのTaiRaのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
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「実は観てない名作映画」の中で二番目くらいにメジャーな映画だった。

スピルバーグが「巨匠」に格上げされた記念作だけど、こんな題材でもベタな笑い入れたり「面白い」編集したりとちゃんとエンタメしてる。映画の序盤はまだホロコーストも水面下で、オスカー・シンドラーという俗物を真っ当に俗っぽく描く。金と女にしか興味のない男を中心に笑いも取りつつ、並行してユダヤ人への迫害が段々と表面化する流れ。クロスカッティングで明確な対比を用いたり、映画的な面白さに貪欲。直接的な暴力を見せる前に、駅で荷物の行方を見せるなど、これから描かれる地獄を予告する場面を入れるのも上手い。正直映画としてはアーモン・ゲート=レイフ・ファインズが登場している間が充実している。キャラクター造形もシンドラーよりゲートの方が面白い。まだ若手俳優だったレイフ・ファインズが才気走ってて、こりゃ売れるわって思う。ゲートが登場してから映画が無慈悲な暴力に侵略され、文字通り人がゴミのように殺戮されて行く。スピルバーグのユダヤ人としてのアイデンティティと抑えきれない残酷趣味のアンビバレントな共存が凄まじい。全ての暴力がこれでもかと残酷に、悍ましく描写される事が映画としては「面白さ」に結実している。恐ろしいものは恐ろしく見せる、という単純でありながら容易でない事を誰よりも上手く出来るのがスピルバーグという人。一番凄いと思ったのは収容所の子供たちがトラックの荷台に乗せられてドナドナされる場面。意味も分からずはしゃぐ子供たちと阿鼻叫喚の大人たちの対比、走るトラックと追い掛ける大人の大群を捉えた移動を伴うショットの躍動感、ここに関しては楳図かずおレベルの恐怖表現だと思う。全体としてはエンタメに振り切る部分とシリアスに見せる部分のバランスにぎこちなさは見えるし、結構ベタな演出も意図的かは知らないが見受けられる。実話物におけるご本人登場演出は好きじゃないんだが、今作ラストの野暮ったさはその中でも群を抜いてる。
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