たく

ユーモレスクのたくのレビュー・感想・評価

ユーモレスク(1946年製作の映画)
3.5
才能あるヴァイオリニストと人妻との不毛な愛を数々の名曲に乗せて綴るジーン・ネグレスコ監督1946年作品。ジョーン・クロフォードの全盛期をちょっと過ぎた頃の熟した魅力にあふれてたね。ジョン・ガーフィールドは「その男を逃すな」が印象的な役者だけど、本作のジョーン・クロフォードとはあまりお似合いではない感じがした。特筆すべきは楽器演奏の吹き替え演技がめちゃくちゃ上手いことで、ジョン・ガーフィールドの弓使いや運指が見事だし、ピアニスト役のオスカー・レヴァントに至っては本当に弾いてるみたい。‥って調べたら彼は本物のピアニストだった。

冒頭、ドヴォルザークのユーモレスクに乗せて物語が始まり、幼いころからヴァイオリンに惹かれたポール・ボレイが11歳で母親にヴァイオリンを買ってもらい、めきめきと才能を発揮して有閑マダムのヘレンに見い出される展開。息子の才能を信じない父親の図式に「グランツーリスモ」を連想した。ポールとヘレンが互いに強気な性格なのが似た者同士で、だからこそと言うべきか、ぶつかり合いながらも愛し合っていく。人妻のヘレンとの不倫という人道を外れた行為にポールの母親が心を痛める中、ラロのスペイン交響曲のシーンで人々の目線だけで二人の関係をすべて分からせる演出が見事。

本作は「芸術に魂を奪われた男と彼の愛を求めて得られなかった女」という話になってると思うんだけど、ポールが芸術一辺倒でヘレンにつれなくするという描写が弱いので(というかヘレンにプロポーズまでしてる)、ちょっとストレートに伝わってこない感じがした。終盤、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をBGMとしたヘレンの嘆きからの幕切れは、ジョーン・クロフォードの魅力が最大限発揮された部分で、ここは「別れる決心」を思い出さずにはいられない。
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