いろどり

私の中のもうひとりの私のいろどりのレビュー・感想・評価

私の中のもうひとりの私(1989年製作の映画)
4.0
コメディを封印するとウディ・アレンはベルイマンになる。

苦手な監督で最後まで観続けられたものは少ないけれど、これはウディ・アレン作品だと忘れて惹きつけられた。オープニングとラストで流れる「ジムノペティ」が美しく、全体的に知的で上品な仕上がりになっている。過去をめぐる幻想と回想が入り混じる演出はベルイマンのイズムをバシバシ感じた。ジーナ・ローランズの吸引力が凄まじく、画面の中から私を迷宮に引きずり込んでくる。

盗み聞きしていたカウンセリングルームの妊婦は彼女の内なる自分。
白い仮面やクリムトの絵は、情熱に従うことを否定して権威に生きてきたことのメタファー。
他にも喧嘩している背後に別の仮面が飾ってあったり、仮面が効果的に使われている。

登場人物たちは50代に突入するところ。
「五十にして天命を知る」という孔子の言葉がある。

自分の人生は何のためにあるのか。

培った経験や胆力が、自分の中の小さな変化を見逃さず、自分を見つめ直す勇気をくれる。
だからこそ50代は、人生の転換期が訪れるのかもしれない。
自分の中の情熱を無視し続けていると、もうひとりの私が訪れる。
心の声に従って生きようと思う作品だった。
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